えとせとら

□空回る頭と、覚束無い足
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tales of eternia
Keel*Rid

“空回る頭と、覚束無い足”





走る
走る

走る。

緋色の柔らかな癖毛が風に乗って軽やかに靡くのを後ろからぼんやりと見ている


但し状況は最悪である。

もうどれくらい走っただろうか。
酸素の足りない脳では正確に判断出来兼ねた。部屋に閉じ籠りきりで勉学に没頭
する生活基準に照準を合わせた身体は、もう限界が近い。

現に、フットワークの軽い赤毛の彼との差はどんどん開くばかりだ。

「リッ…ちょっ、待って…!!」

「バァカ、今止まったらアレの餌食だ」

引き締まった細い腰をひねり呆れたように言う。達観した口調に反して、顔付き
は随分と幼い。大きな瞳に赤く熟れた唇…まるで女のそれだ。

走り続ける僕らの数メートル後ろからはガシャガシャと煩い金属音を響かせて追
い掛けてくる鉄の塊と、その上に乗って険しい形相を向けるチャット。

「よくもボクの大事なバンエルティア号を破壊しましたね…!!!」

「破壊って…ちょっと弄ったらネジが取れただけじゃねーか!!」

「あの部分の要だったんですよ!?破壊したも同然です!!!」

怒りで顔を真っ赤にしたチャットが、更にスピードを上げてこちらに突進してく
る。

余りの切迫した空気に思わず体が竦む。乳酸の溜まった筋肉に鞭を打って速度を
上げようとするが、なかなか思うように動いてくれない。

「くそっ!!」

大体、興味本意でチャットの大事な機械を再起不能にしたのはリッドだ。しかも
一度や二度ではなく、懲りずに破壊活動を繰り返している。

彼曰く、『何か面白そうじゃん』…もう少し、学習能力と言うものは無いのか…

そこが彼の魅力であると言えば否定出来ない(寧ろ其処に惚れた)のだが。

しかし、たまたま居合わせただけの僕に罪はない!!

そう思った瞬間。
ローブの裾が縺れた爪先に引っ掛かり、視界が急速に傾いだ。

「うわっ!?」

だめだ、支え切れない…





そう思った瞬間。
ふわりと体を支える何かに触れた。白く細い腕が僕の肩を掴む。思わずキスした
くなるが、不謹慎だと怒られるので今は止めておく。

「ったく、も少し体力つけろよ」

軽く片手で上半身を支えてくれながら悪態を吐くリッド。
未だ足がもたつくのを見て、自然と半身で僕を庇いながらチャットと対峙する。

大きな空色の瞳が、全てを見透かす様に前方へと据えられた。浅く呼吸を繰り返
す度に動く肩を見詰めながら、彼もそれなりに疲労している事を知る。

(何か打開策を考えなくては…)

「リッドさん、もう何度目だと思ってるんですか…今日ばっかりは絶対許しませ
んからね!」

ふと、視界の端に暗い路地が映る。

「だぁから、ごめんって謝ってるだろ!!ちゃんとネジも戻すから…」

(彼処なら何とか逃げ切れるか…?)

「ダメですっ!!リッドさんが触ったらまた壊れちゃいますよ!!!」

チャンスは一度きり、コレを逃したら無傷で生還できるかどうか危うい。

「うっ…お、俺だって好きで壊してんじゃねぇもん!」

(僕がリッドを担いで彼処まで…行けるか?…大丈夫、今の僕になら出来る!!)

「ぷっ…ははは!!なぁんだ、機械に興味があるなら早く言ってくれれば良かった
のに。そうと分かれば早く戻りましょう、機械の素晴らしさ、伝授しますよ!!」

「いや…そんなに興味ある訳でも」

ない、と言いかけた瞬間。
体が乱暴に引き摺られ、足が宙に浮いた。

「ななな、何だ!?」

「逃げるぞ、リッド!!」

「はぁ!?」

キール一人だけ妙に切羽詰まっている。
見ると、普段は冷えた色をしている瞳がギラギラと輝き、気合いに満ちた表情を
していた。痛いくらいにリッドの腰を抱えながら肩に担ぎ走り出す。

「えっ、ちょっと、キールどこ行くんだ??」

「さぁな!!僕とリッドの愛の逃避行だ」

「ばっ、バカかーーー!!!!」

先ほどまでのやり取りを全く聞いていないらしいキールは、呆然と立ち竦むチャ
ットを一人取り残して遠ざかって行く。

その足取りは、周囲の歩行者より遅くよたよたと蛇行している。リッドも肩に担
がれたまま散々怒鳴り散らしているが、降ろす気はないようだ。

……そうして街の見世物になりながら彼らは去っていった。

「…………当分、帰って来ませんね。あれは…」

何とも煮え切らない思いを抱えたまま、チャットはガシャガシャと金属音を響か
せて帰っていく…

心なしかその足取りは重そうに見えた。


fin
…………………………………
わ。キルリじゃないし、これ。何がしたいんだかさっぱり分からない罠!!…ぎゃ
ふん。

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