えとせとら

□輝く月の様に
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もう
知ってしまったから。

後戻りは出来無い。















「ね、ぇ…」

何時ものように、バーに寄るような気力なんてある訳がなく。

倉庫の中で立ち竦んでいたフィッシュアイが小さくその形の良い唇を震わせた。

「…?」

「ボクは、誰なんだろう。何なんだろう。どうして、こんな身体を貰ったのかな
…」

告げる瞳は訴えるようにこちらを見ても、光は鈍く虚ろだ。

其れについて正確に答えられる情報を持ってはいないし、何より彼がそんな気休
めのような嘘を望んでいるようには見えなかった。

「フィッシュ、アイ」

「ねぇ…どうしてボクには」







"夢"がないの………………
























分からない。

そんなもの、要らない。

綺麗だとは思うけれど、煩わしい。

そんなもの、持っていたら。

持っていたら…




























何も答えずその瞳を見つめ返していたら、不意に光が射した。



その
綺麗な

水晶の様な瞳から

宝石が
零れ落ちた。

「何か言ってよ…タイガースアイ」

「………………………」

「ねぇどうして」

「フィッ……………」

「ねぇ!どうしてどうしてどうして!!!!!!!!」

堰を切って流れる涙と共に、男の癖に随分高い声の怒声が響く。

止まらない涙

止まらない嘆き



どうしたら、君を救えるかなんて。
そんな事考えてはいなかった。

その嘆きに共鳴して

叫んでいた自分に
虚身の心の軋みに

気付いてしまったから。



彼が泣いている。

僕を

貶すように
責めるように
蔑むように

縋るように





彼は

静かに







総ての門を閉ざした。



Fin

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