- 短篇集 -


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「どうして僕を、見てくれなかったの?」

 蝋燭の明かりと暖炉の炎が、互いに交わり、微かに揺らめく薄暗い部屋。足元に転がるソレに、僕はそっと問いかけた。何時迄経っても返ってこない答えに、今日何度目かの溜息が零れる。

「何時も傍に居るのに、如何してその瞳は僕を映さないのかな?ねぇ、こっちを見てよ。」

 ゆっくりと屈み込んで、散らばる髪に指を絡めた。力一杯引き上げると、其処にはとっても見慣れた顔。毎日毎日、――それはもう飽きる程に見続けてきたその顔は、今日も不機嫌に歪んでいる。

「たまには笑ってくれてもいいんじゃない?最後ぐらい、さ。」

 無理矢理覗き込んだ、見開かれたままの目にも、やっぱり僕は映っていなかった。黒い部分が上の方に行ってしまっているからかもしれない……。僕は左側の目の際に指を当てて、動かそうとしてみたけど、上手く動かなかった。

 仕方なく、目の際に指を捻じ込み、目玉を取り出してみる。びろびろとした物がくっ付いてきたけど、邪魔だったから目玉だけ引き千切って、重たい頭の方は手放した。

「映らないや……。暗いからかな?」

 角度を幾ら変えて見ても、一向に僕を映さない。僕はそれを持って、燃え盛る暖炉の前へと移動した。座りこんで、暖かい光の中へと翳す。薄らと湿ったそれは、きらきらと、まるで宝石の様に輝いていた。

「こんなにも綺麗なのに、駄目か……」

 どんなに間近で見てみても、やっぱり僕の姿は映らない。急に自分のしている事がくだらなく思えて、僕はそれを暖炉へと投げ入れた。じゅうじゅと言う音と共に、酷い匂いを撒き散らす。

「ねぇ、痛かった?」

 僕は赤い水溜りに近付き、横たわったままの塊に問いかけた。どうせ返事など返ってこないと知っているのに。僕も同じように傍らへと寄り添い、胸から突き出たナイフの柄に触れた。僕の手を染める冷たい赤の、ぬるりとした感触が心地いい。

「僕も痛かったんだよ。ずっと、ずっと、独りぼっちでさ。ここが、僕もずっと痛かったんだ。今なら、きっと解ってくれるよね?僕がどれぐらい痛かったのか。これがね、ずっと続いていたんだよ?」


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