- 短篇集 -


□Are U my friend?(※)
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Are U my friend?

「惣介、助けてくれっ!!」
 今、目の前で僕に助けを乞う友人が一人。切羽詰まった表情。命が危険にさらされているのだから当然だろう。彼の喉元に、光るナイフが一つ。自我消失間近の男が固く握りしめている。

 今日は、久し振りに友人である彼と買い物に来た。急な誘い。本当は家で本を読むつもりでいたのだけれど、彼がどうしてもと言い張って聞かないから、僕は渋々承諾し、その足でATMへ行って今日必要となるだろう現金を引き出した。待ち合わせの10分前。僕は約束の場所で彼を待った。彼は10分遅れてやって来た。
「悪ぃ、金下ろすから銀行寄る。」
 開口一番。へらりと笑って言う彼に、僕は特に抗議することもなく、黙ってついて行く。銀行への道すがら。彼はしきりに自身の近況を論った。何時もの事。僕は適度に相槌を返し、全てを聞き流した。何一つ惹かれる話題はない。
 長い列に並ぶ彼を、僕は隅の柱に寄り掛かってぼんやりと眺めていた。作業着姿で振り込みに精を出す男。沢山の請求書を片手に送金画面と格闘する女。月末の所為か、そういった客が多い。ここを出れるのは、何時になることか。時計は間もなく3時になろうとしていた。もう直、窓口が締まる。カウンターの中で、行員達が忙しなく業務をこなしてゆく。そんな時だった。この常軌を逸した形相の男がここへやって来たのは。
「動くなっ!」
 そう怒鳴った男の手には、今まさに彼の首元へ突き付けられているナイフが握られていた。その姿を目にした客達は一斉に悲鳴を上げ、出入り口に近い人間は慌てふためいて、散り散りに飛び出していった。彼はと言えば、列の折り返しに居た為に、その男にあっさりと囚われてしまった。
「動くなっ!動いたらコイツを殺すっ!!」
 男が声を張るが、気に留めるのは当の本人と、行員達ぐらいのもの。見も知らぬ者の為に、この場から立ち去らない方がいいなどと思う人間は少ない。そんな現状に、彼は小さな悲鳴を上げた。哀れな事この上ない。行員達に縋るような眼差しを向けるも、お手上げとばかりの表情を返され、彼は力なく項垂れた。そして、今になって思い出したのか、漸く僕の姿を探し始めた。
「――惣介、助けてくれっ!!」



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