長編小説(予定)

□取り敢えず無題(中)
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11.知音

 翌日、朝食を済ませたばかりのリビングに電子音が鳴り響く。彼が慌ててポケットから携帯を取り出すと、それは深い青色のランプを点滅させていた。

「はい。……ああ、春樹くんですね。大丈夫ですか?」

 昨夜訪れた宮村春樹からなのだろう。彼は真剣な面持ちで、心配そうに問いかけた。だが宮村は誰かに危害を加えられているわけではないのだろう。彼の表情は程なくして和らいだ。

「あ、ちょっと待ってください」

 彼は通話口に手を添えると、私に小さな声で回線を繋ぐようにと囁く。私は急いで彼の携帯回線に侵入した。電話の向こうで宮村が森と何やら言葉を交わしているのが聞こえる。私が首を縦に振って彼に侵入した旨を伝えると、彼は再び携帯を耳に当てた。

「お待たせしました。それで、何かお分かりになりましたか?」
「今日、あの手配書の事を店長に訊いてみたんですけど、どうやら販売組合から配布されてるみたいっすよ。しかも、季節毎に最新の写真に貼り返られて、刷り直されてるみたいで……。」
「なんと言うか……、随分と手が込んでますね。」

 彼はそう言って苦笑を漏らす。最新の写真は一体何処で入手しているのか、一体誰がそんな物を用意しているのか、そう言った事は販売店側には知らされていない様で、宮村も苦々しげな唸り声を上げた。

「一番最初にその手配書が回ってきたのは随分前の事みたいなんすけど、店長も不思議に思って販売組合のお偉いさんに聞いてみたらしいんすよ。だけど、『知らない方が身の為だ』って言われたらしくって…。兎に角売らない様にとだけ念を押されたらしいです。その時に、何かあったら命の保証はないとか、脅しみたいな事も言われたみたいで……。」
「そうですか……。色々と疑問点は多いですけど、販売組合に顔の利く方がなさっているというのは間違いなさそうですね。」
「オレらで、もう少し調べてみますよ!」

 そう言って、直ぐ傍に居るのであろう森と意気込む声が聞こえる。

「お気持ちは嬉しいのですが、もしもお二人に何かあったりでもしたら、私は後悔してもし切れません。どうか、これ以上の深追いは……お願いですから絶対になさらないで下さい。パーツが手に入らない事なんかよりも、お二人の命の方がずっと大切なんですから……。」


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