長編小説(予定)

□取り敢えず無題(上)
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2.出会い


はらはらと小雪の舞い降る中、私達は並んで駅までの道を歩いた。
実際墓地は人気の殆どない奥まった場所にあった。
駅からも徒歩でかなりの距離がある。
普段なら駅からここまで何本かのバスが走っているが、生憎こんな日には人間の利用する乗り物は運休が多い。
こんな日に出歩くのはロボットくらいのものだろう。
ロボットを所有する人間はこんな日に出歩く必要など殆どないのだから。

彼は何も言葉を発さず、ただ黙々と私の横を歩いていた。
時々気を惹く物に目をやるが、それについて私に何か話し掛けることもなかった。
お陰で私はまた思い出に耽る事が出来た。



あの人と初めて会ったのもこんな雪の日だった。
ラボから雪のぱらつく中、彼の自宅を訪ねて行った。
あの日も駅からの交通機関は大方運休していて、私は駅から彼の自宅まで徒歩で行ったのだった。

私は彼への贈り物だった。
彼の父親から息子への最後の贈り物として彼の父親に作られた。
彼の父親はロボット開発の仕事をしていた。
ロボットの開発はロボットには出来ない。
ロボットがロボットの生産をすることは出来る。
しかし開発は人間にしか出来ない。
人間のみが就く事の出来る職業だった。

人間はロボットに人工知能を与えた。
だがそれは人間の知能とは違い、あくまで経験したことのデータを基に対処できるようになると言うもので、
それが蓄積されて、人間に近い行動をとれるようになるというだけだ。
人間の様に未経験でも予測などで対処出来たりはしないのだ。

だから出来たてのロボットはなんとも心許無い。
人間の望み通りに動けないことが多い。
経験させ、失敗を基にデータを蓄積させなければならない。
それでも人工知能を搭載されるようになってからは、失敗のデータを様々な事に応用して対処できるようになった。
こういう開発は人間でなければ出来ない。
人間が望まなければ私達は進化しないのだから。

人間がロボットに求めるものは無限だ。
絶対的な服従を求め、且つ安全で、人間に限りなく近く。
その要望に応える為、開発者は殆どラボから出ることもなく開発に取り組むのだ。
彼の父親もそうだった。

開発者の多くはとても危険な状態に身を置いていた。
ロボットを好まない人間もいる。
他の開発者よりも秀でていれば敵視される。
ロボット開発は大金が絡むし、企業同士もお互いが敵対意識を抱いていた。  

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