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□バーボンは眠りたい
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─バーボンは眠りたい─
『ねぇ、ベルモット』
「なぁに?」
『私の聞き間違えかな?私とバーボンが同室になった…って、さっきキャンティから聞いたんだけど…』
「さぁ?気になるなら本人に聞いてみればいいじゃない。もう戻ってるはずよ」
『私、同室になるなら、ベルモットかキールが良かった…』
「カシス……、」
『だって、バーボンって、笑顔の裏で何考えてるのかわからないし、隙がないんだもん…ちょっと怖いの』
「…大丈夫よ、同室って言っても任務でこっちに来てる時だけじゃない。バーボンだって、貴女だって、別で部屋を借りてるでしょう?」
『うん、…』
「何かあったら、すぐに言いなさい」
『ベルモット…』
最初は“面白そうね”って顔をしてたベルモットだったけど、あまりにも私が不安そうな顔してたからか、心配してくれた。ベルモットって、意外と面倒見がよくて優しい。
『よし、』
取り敢えず、…真相はバーボンに聞いてみるしかなさそうだ。
どうしよう、すごく怖いけど、…行くしかない。
──コンコン、
「どうぞ」
ガチャリとドアが開けば、いつもの笑顔で迎えてくれる、バーボン。相変わらず何考えてるのかわからない。ジンみたいに見るからに今俺キレてます、みたいな分かりやすい性格ならこんなに悩む事はないのに。
『あの、…』
「あぁ、聞きました?今日から同室になるって話」
『どうして、私とバーボンが同じ部屋に?』
「詳しくは中で話します。さぁ、どうぞ」
ニコニコと、人好きのする笑みを浮かべながら手を差し出して招き入れてくれるバーボン。
内心びくびくしながらも、『ありがとう』とその手を取った。
「コーヒーで……あぁ、カシスは紅茶が好きでしたね。アールグレイでいいですか?」
『え?あ、うん』
バーボンとは任務で何度か組んだことはあるけれど、必ずライやベルモットと一緒の時で。こうして二人きりになる機会は…多分これが初めてだ。
「甘いものも好きでしたよね?一緒にクッキーはいかがです?」
『好き…です』
「そう言うと思って、もう準備してありますよ」
任務以外で会話する事も殆どなかった筈なのに、どうして私の好みなんて覚えてるんだろう…記憶力がいいのか、それとも…?
探り屋の名前は、飾りじゃなかったってことかな。
謎の多い人。私が調べても、不自然なくらい、何も情報が出てこなかった。バーボン以外で名乗ってる安室透の名前も偽名だろうけど、それにしても…情報が少なすぎる。
「はい、熱いので、気をつけて下さいね」
『うん…』
座り心地のいいソファーに二人で並んで座る。そこそこ大きなソファーなんだから、もう少し離れて座ってもいいと思うんだけど…。私の隣にいるバーボンとの距離は拳ひとつ分くらいしかない。
「…では、話しましょうか。まずは、どうして僕と貴女がいきなり同室になったのか、ですが」
バーボンはコーヒーを優雅に口元へと運びながら、笑みを崩すことなく、
「脅迫する為です」
私に告げた。
『きょう、はく』
呂律が回らない。拙い口調のまま尋ねると、クスクスと笑うバーボン。その笑顔と、脅迫という言葉がミスマッチ過ぎて、思考が追い付かなかった。
「えぇ。その為にわざわざ同室になるよう仕向けました。僕は、…」
バーボンの指先が、私の頬をするりと撫でた。
「貴女の秘密を知っています。……名字名前さん?」
『な、んの、ことでしょう…?』
「危ないので、これは一旦預かりましょう」
私の震える手から、カップが奪われた。
用意周到な彼の事だ。私の本名だけでなく、その他の情報も、既に手に入れているに違いない。バレていなかったとしても、…名前を知られているなら時間の問題だろう。
「安心して下さい。この部屋に盗聴器はありません。…カシス、賢い貴女ならわかるでしょう?僕が不確かな情報を元に、このような発言をする筈がないと」
『………一体、どこまで……知ってる、の?』
「どこまで、ですか。例えば、」
コンコン、とテーブルを鳴らすバーボン。
その動作は…ノック、
NOC
Non official cover
……それは、組織への裏切りを意味する。
「この事、とか?」
『……っ……私をどうするつもり?』
「誤解しないで下さい。組織にリークするつもりはありませんし、追及するつもりも、ありません。ただ、」
少しお願いを聞いて欲しいだけですよ、と
ニコニコと話すバーボン。その先に続く言葉が、一体何を示すのか、私は恐ろしくてたまらなかった。
………はずだったんだけどな。