◆◇series◆◇
□降谷さん専用安眠枕
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降谷さんの安眠を守るべく奔走していた筈だったのですが、なんやかんやありまして、今は降谷さんのセーフハウスで一緒に眠る仲になっております。
……何故?!
展開が早すぎて思考が追い付きません。お兄ちゃんに報告したら無言で親指を立てられた。よくやった…じゃない!
登庁する度に「頑張れよ」と生暖かい視線を送りながら労いの言葉を掛けてくる同僚たち。
待って待って?!
頑張れよって……あなた達も、降谷さんの安眠守り隊でしょ?!…って言えば「お前以外に適任はいない。任せたぞ」なんて言いながら背中を押された。
そりゃあ、嬉しくない訳じゃないし、その……隣に降谷さんがいると私も安心してよく眠れるし…って、私ったら何考えてるんだろ。
ダメダメ!いくら…す、好きでも、私なんかが……
ぎゅぅぅぅっっ
『ぐ、ぐるじい』
「こら、また余計な事を考えてただろ」
回想シーンから一気に現実へと連れ戻された。
ふかふかのベッド、ふかふかのお布団、私の後ろには降谷さん。背後から回された逞しい腕が私のお腹を締め付ける。苦しい。乙女にあるまじき声が漏れるので少し緩めて欲しい。
『ふ、ふるやさん……ギブ…』
「はぁ……お前達は兄妹揃って慎重過ぎるんだ。仕事する上ではとても助かってるよ。でも俺といる時くらい……何も考えずにいて欲しいと思うのは…ワガママか?」
ふと、腕の力が緩んだ。
私の肩に顔を埋めた降谷さんの声がくぐもって聴こえる。サラサラの髪が頬に触れて少し擽ったい。
サラサラでキラキラの髪とか、羨まし過ぎる。
仄かに香る降谷さんの香りに、思わずときめいた。
やっぱり、好きだなぁ、と温もりに包まれてぬくぬくしていたんだけれど、大事な事を忘れている気が、…
……あれ、…前回返事をうやむやにしてから……私、ちゃんと降谷さんに何も伝えてない…?
いくらなんでも、寝ている間に伝えたのは、ノーカウントだろうし…
『降谷さん!』
「ん?どうした…?」
『お言葉に甘えて、深く考えず、思ったまま行動に移しても、いいですか……?』
とはいえ、ストレートに口に出す度胸はまだなくて、それよりもまだ態度で示す方がハードルは低い筈だと、まだ眠りの中から完全に覚醒出来てないふわふわ状態の頭で出した答えがこれだ。
「あぁ、構わない」
女は度胸だ……!
──ちゅっ、
くるり、と振り向いて、すぐ近くにある降谷さんの頬に、触れるだけの口付けをひとつ。
そして、再び前に向き直った。
『ここここれが、…私の、きもち、です!』
「………名前、」
『はいっ!?』
「場所が違う」
『へ?』
前に向き直った…筈なのに、流れる様な動作で私の身体がくるんと回る。
「キスは、…ここにするもんだろ?」
サラサラした降谷さんの前髪が私の顔に掛かって、影を作る。近いな、なんて考えていたら、
『ふる、……っん、…んぅ』
ゆっくりと口唇と、口唇が触れて……思わず目を見開いた。
「こういう時って、目は閉じるもんだろ」
『だ、だって…降谷さんが、いきなり、するから…っ、間に合わなかっただけです!』
「ふぅん……じゃあ、次は大丈夫だな」
『つぎっ、ふ、…ん、ぅ、…んっ……』
状況は全くと言って変わってなかった。
再び塞がれた口唇。
次は、だなんて、いきなりな所は変わってないじゃないですか!そう言いたくても言葉にならない。
零れたのは、断片的に漏れる声だけで…
また、私だけ、翻弄されてばかり。
いつもいつも、降谷さんは余裕で、私ばかりドキドキして、慌てて、余裕がないなんて…
悔しくて、ちょっと…淋しくて、
私だって、他の人じゃ嫌だし、降谷さんじゃないと意味がないし、
誰にも負けないくらい、…す、すき、なんだから!
『…っ、ふるや、さ、ん……すき』
「……っ、」
気持ちの勢いだけはあったけど、実際、口にした言葉に勢いはなく、小さくて、震えた声しか出なかった。
…情けない。さっきの勢いはどこに行ったのよ…
そんな感じで自己嫌悪に陥ってたら、
『……んぅっ?!』
口唇の隙間からにゅるりとしたものが入ってきて、それが降谷さんの舌であることを認識するより早く、私のそれが思考ごと絡め取られた。
『ふ、ぁ……んんっ…は、んっ……』
にゅるにゅると、まるで生き物みたいに絡み付いてくるそれに、頭の中がとろとろ蕩けてしまいそうになる。
それでも必死に舌の感触を追い掛けたら、…より一層激しさが増して息継ぎすらままならなくなってしまった。
『ま、って、……ふるやさ……息、…っん、』
力の入らない手で降谷さんの胸元を押して待ったをかけたけど、
「ん、……かわいい」
会話が成立していない。
薄目を開けたら、整った顔立ちが超至近距離にあって、息が止まりそうになった。心臓に悪い!!もう、降谷さんはもっと自分がイケメンだってこと、自覚して下さいよ!
なんて考えながら翻弄され続けていたら、漸く合わさっていた口唇が解放された。
「あ、………ごめん、苦しかったか?」
そりゃあ、いきなり上級者向けのディープキスなんて、苦しいに決まってるじゃないですか!
……でも、私の口から零れたのは全く別の言葉で、
『…っは、…ふ、ふるやさんのキス……きもちいいです……』
多分、それが本心だったんだと思う……
ポロリと無意識に零れたその言葉に、カッと顔が熱くなった。
「おい、」
『は、はい、』
「今の場所と状況をよく理解した上での発言だよな?」
『え……?』
未だ荒い呼吸を繰り返して、飛び出しそうな心臓を押さえる様にして胸に両手を当てていたら、
急に真剣な表情の降谷さんに両肩をがっしりホールドされた。
よく聞こえなくて聞き返したら、降谷さんの眉がピクッと動いて深い溜め息が聞こえた。
「これでも……全力で我慢してるんだからな」
『は、はぃ…』
「本当はキスだけじゃ全然足りないし、その先だって、……全部、欲しい」
ヒュッと、息を飲む。熱の籠った視線に捕まって、漸く整いそうだった呼吸が、また、乱れる。
「俺だって男なんだ。そんな反応されると抑えが利かなくなる」
私の手を取って、その手は降谷さんの胸元に。
どくん、どくん、と通常よりも幾分か早いその胸の音。
私ばかりが、ドキドキして、余裕がないと思ってたけれど……そうじゃ、なかったんだ。
「次、刺激するようなマネしたら、その時は………
名前、お前を抱く」
耳元に落とされた爆弾の威力は、凄まじかった。
(そ、それは抱き枕としてではなく……?)(……試してみるか?)(いや、あの……)
(嫌なら無理強いはしない)(…………ちゃんと可愛い下着の時がいいです……)
(…………)(あの、降谷さん?無言にならないで下さいよぉ…不安にな、っ)
ギュッと強く抱き締められて、二つ目の爆弾。
(待たせた時間の分だけ、……覚悟しておけよ)