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□零さんからのお願い
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【零さんからのお願い】
─零さんの場合─
そろそろかなぁ、と少しそわそわしながら時計を見上げていたら、側に置いてあった携帯が鳴った。
その聞き慣れた電子音に、私は手を伸ばした。
『もしもし、零さん?お仕事終わった?』
「名前…もう、徹夜続きで家に帰る気力さえなくなりそうなんだ…。」
『ぇえっ?……大丈夫?』
仕事が終わったら連絡する、と言ってたからご飯やお風呂の準備もバッチリ終わって、後は零さんからの連絡待ちだったんだけど……。
携帯越しに聞こえる零さんの声はいつもよりも少し弱ってるみたい。…心配だ…。
「大丈夫じゃない。だから、…名前にお願いがあるんだ」
『うん、何でも言って!』
「俺が元気になるように、…“とびきり色っぽい声”で俺に早く帰るように言ってくれないか?」
『………へ?』
え、何?そのリクエスト……
相当疲れてるのかなぁ……そんなんで元気出るのかなぁ…?
『えっと、……わかった。』
「色っぽくな」
『う、……努力します』
こほん、と咳払いをして覚悟を決めた。
『零さん、……早く帰ってきて?……私、ナマモノだから、早く食べないと、傷んじゃう、よ?』
……ぐっ、……とてつもなく恥ずかしい。
え?ちょ、無言とかやめて!早く何か言ってよーっ!!
「今すぐ帰る」
その声の後、携帯越しにガチャ、バタン!とドアの閉まる音がして、
「また後で」
その声の後、耳元でチュッとリップ音を残して電話が切れた。
『……え?』
最後のチュッ、に全部思考を持って行かれた。
その後、ぼーっとしてる内に零さんが帰ってきて、
お出迎えしようと玄関に向かえば、“おかえり”を言う前に口唇を塞がれて、腰が抜けるまで解放してもらえなかったのはここだけの話。
「……ただいま、名前」
『…っ、…お、おかえり、なさい……』
「早く食べたいから帰ってきた」
『あ、うん、ご飯…出来てるよ』
「あぁ、ナマモノだから、早く食べないと、な?」
『ナマモ、ノ……?あ、…ぁあっ!?』
ギラリ、と光るブルーグレーの瞳。
思わず後退りしようとしたら、
ガシッと腕を拘束された。優しいタッチなのに、全然、びくともしない。
「こら、逃げるな。……早く食べないと、傷んじゃうんだろ?」
『えっ、と、………』
「ふぅん……名前はここ(玄関)で食べられたい、と…」
『え?!いや、………うぅ…………零さん、移動しましょ……』
「ふふ、喜んで」
そのまま運ばれた先は、…言うまでもない。