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□風見さんからのお願い
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【風見さんからのお願い】
─降谷さんの場合─
『もしもし?あ、風見さん?』
風見さんから私宛に電話なんて、珍しい。
なんて思ってたら
「名前さんっ!!!助けて下さい!」
『ぇえっ??!』
ものすごく切羽詰まった声で助けを求められた。
「ふ、降谷さんが…っ…」
『風見さん、落ち着いて!零さんがどうしたの?』
「降谷さんが、……鬼と化してます。」
『………鬼?』
私の頭に、緑の髪でツノの生えた電撃娘がぽわっと思い浮かんだ。
『………だっちゃ?』
「そんな可愛らしいものではないですよ。我々の命が懸かってますから……はっ!どうした?」
電話の向こうでバタバタしてるのが聞こえる。
忙しそうだ……。零さんが鬼と化してるってどういうことだろう?仕事の鬼…みたいな?…いや、それは元からか。
「か、…風見さん!大変です…!降谷さんが……金棒を手に入れました!!」
「何っ?!!何でここにそんな物が置いてあるんだ!?」
「去年の忘年会で使われなかったやつですよ!金棒とセットで鬼娘のコスプレを…数少ない女性社員に着て貰おうとしたら、“セクハラだろうがっ!!”ってラリアット食らって御蔵入りになってたあれです。…ヒィィッ!!こっちに向かって来ますよ?!!」
どうやら零さんの手に、その金棒?が渡ったらしく、小さく悲鳴が聴こえてきた。大丈夫かなぁ?
『ね、ねぇ……風見さん?大丈夫?』
「いえ、ちっとも。…3徹を超えたあたりから、降谷さんの様子がおかしくなったんですよ」
『3徹……?!仮眠室でちゃんと寝てるからって言ってたのに…!』
「30分は睡眠の内に入りませんよ…。」
『さ、30分……』
そりゃあ、おかしくもなる筈だ。睡眠不足に栄養不足……もう限界なんだろう。
「多分、不足しているのは睡眠だけではないと思うんですけどね…。この前も、降谷さん…スマホに向かって話し掛けてたんです。」
『う、うん、』
「スピーカーにして話してるのかと思えば、名前さんの写真に向かって声を掛けてたり、……気付けば二人分コーヒーを用意していたり。“あぁ、名前はブラック苦手だったな”なんて呟いていたりして」
『重症ですね……』
「一度自宅に帰られてはどうかと、お伝えしたんだが……後少し、これだけ終わらせる…なんて言っている内にこの惨状だ…。だがあの状態でも金棒持って徘徊しつつも書類に目を通してサインしたり訂正箇所に印付けたりしているから、流石降谷さんだ…」
『か、風見さん!感心してる場合じゃないですよ!』
「はっ…!そうでした。取り敢えず名前さんから降谷さんに、家に帰ってくるように言って貰えませんか?我々の言葉はもう耳に入らないでしょうから…」
『それは、私としても早く帰って来て欲しいので、構いませんけど……』
風見さん達で手を焼いてるっていうのに、私の一言でどうにかなるのか…
「大丈夫です。寧ろ、貴女でないと、無理です。」
『……わかりました。……あ!そうだ、風見さん、一つお願いがあるんですけど…』
「はい、何でしょう?」
『さっき…職場の人と話されてた“金棒とセットの鬼娘のコスプレの衣装”って……まだありますか?』
「えぇ、金棒があるので、それも倉庫にあるはずですよ」
『それ、零さんに渡してから…電話を代わってもらっていいですか?』
「いいですけど……」
『大丈夫です!(たぶん)これで元通りです』
「(多分…って聞こえた気がするが………今は名前さんに頼るしかない…)よろしくお願いします」
『……頑張ります』