短文

□無限
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2週間前アフロディが入院した。どうも消費期限切れの卵で目玉焼きを作って腹を下したらしい。

そしてこの日は3人でアフロディの見舞いに来ていた

「エレベーター息苦しい… ってガゼル。病院の中でもゲームしてんじゃねぇよ」
「うるさいな たった今最終章でサタンが降臨し私の中に潜む先代の悪魔の血が騒ぎ出すところなん「うるせえわ」

「ほら2人とも次の階で降りますよ」

機械的な電子音が響くと同時に、チャンスウとガゼルはスタスタと降りて行ってしまった

慌てて走りながら2人を追いかける。角を曲がると同時に何かにぶつかり、生温い床に身体を打ちつけた


「いってぇ…悪ぃ」
「す、すいません。大丈夫ですか?」

そう言ってすっと手を差し出したのは、これから自分たちが会いに行こうとしていた張本人。アフロディだった

「なんだよ。アフロディじゃねーか」
「あ、あぁ 久しぶり」
「元気そうじゃねぇの。もう退院できんじゃねぇか?」
「あ、うん。今週中には退院できるってお医者様が」

それから3時間ほど病室に留まり、4人で話を続けていた。

「おっともう4時ですよ。そろそろ帰らねばいけませんね」
「全くここの飯はまずいな。塩味が効いてない」
「うん。だよね」


「……」

わずかな蟠りを感じつつ別れを告げた



「またな」




その夜

「お、とといの〜ガゼルの寝言は〜たわしの安売りバーゲン お一人様1個までと〜」
頭に浮かんだ語句をただ並べただけの歌を口ずさみながら、最寄のコンビニまで歩いていたときだった

何かが目の前の路地を通り抜けていった。それは見覚えのある艶やかなあの金髪だった


(今のは…いやいや、でもなんでこんな所に)


好奇心に負けて、ついつい追いかけてしまった
薄暗くて、生温い風が吹いている

ぴたっ

目の前の人物が歩を止めた
びくっと俺は反応して、とっさに近くにあったダンボールの陰に身を隠した

くるっと振り向いたその顔は、さっきと変わらないアフロディの笑顔だった

(な、なんで俺隠れてんだよ)

乱れる息を整えながら、一心不乱にもう一度振り向くとそこに彼はいなかった



気になって仕方がなくて、次の日俺は一人でアフロディを訪ねた

「どこにもいねーな」

病室にも屋上にも、覚えのあるところすべてにいなかった

ふと足が向いたそこは人気のない病棟だった

患者と看護師はいるようだが、数人しか見受けられない

廊下の一番奥、右側の一室の前で足が止まった

おそるおそるドアを開けると



「アフロディ…?」



アフロディがただ静かに、立っていた

純白のシーツを赤い血で染めながら


「あれぇ…グスグス」
「うふふふふふふふふふふふ」

キツネのような形相のアフロディがアフロディの身体を喰って、いた。


「ひっ…!」

青白い顔に置かれた口元がありえない程に歪んでいる。
口角からはアフロディのものと思しき血が垂れている

ズズ…と耳を覆いたくなる音に俺は咄嗟に耳を塞いだ


その直後

グシュッと聞きなれない音が耳に響いた


「うふふふふふふ」


視界が赤に染まった。

右の後頭部に右手を添え―られなかった



「うわあああああ!!!」

俺の後頭部を口に詰め、そいつは一言


「うふふふふふふ次は君のお友達だよふふふふふふふ」














ぐちゃ  ぐちゃ

無限に続くその音の主は


青い身体を貪る 赤い狐だった



「次はお前の―」




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