御退散<中部・北陸編>
□第8章 淡路島の戦い『金長狸』
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傘さし狸:空からの攻撃・・・どう戦えばよいのか・・・
首吊り狸:敵の本陣に奇襲攻撃をかけては、どうか!?
小僧狸:敵は百鬼夜行。ジュウタン爆撃をするカラス天狗の数など微々たるもの。本陣には、少なくとも80匹は堅いでしょうな。
傘さし狸:それだけの数がいたのでは、奇襲攻撃でも効果は、期待できぬか・・・。
沈黙が訪れた。
腕を組むもの、みけんにシワを寄せるもの、天を仰ぐもの・・・様々だ。
団三郎狸:よろしいか!?
その静寂を破ったのは、団三郎狸であった。
遠慮がちに声をかけた。
団三郎狸:敵のジュウタン爆撃・・・乗ってみては、いかがか!?
傘さし狸:なんとっ・・・我らに死ねと申すかっ!!
団三郎狸:そうではありませぬ。むろん、逃げて頂きます。
傘さし狸:とは言え、死者が出るのは、必定でありませぬか!?
団三郎狸:戦に犠牲は、つきものです。
傘さし狸:新参者がでしゃばるなっ!!
隠神刑部:待て。
低く、ドスのきいた声が、傘さし狸の次の言葉を押さえた。
隠神刑部:団三郎狸殿。よう言うて下さった。
傘さし狸:隠神刑部様・・・。
隠神刑部:傘さし狸・・・。奇襲攻撃でも犠牲は出るぞ・・・。
傘さし狸:はい・・・。
隠神刑部:それとも、お前には死者を出さぬ別の策があるのか!?
傘さし狸:いえ・・・。
隠神刑部:では、決まりだ。団三郎狸殿の策でいく・・・。そして、妖鬼一族を叩きつぶすっ!!
びっくりしたような目で首吊り狸が隠神刑部に声をかける。
首吊り狸:どうやるのですか!?
隠神刑部:ジュウタン爆撃にのるは、敵をおびき出すため・・・そうでありませぬか!?団三郎狸殿。
団三郎狸:はい。敵は、海にて叩きます。
小僧狸:海か・・・。
隠神刑部:そうじゃ。その後、奇襲部隊を上陸させ、手薄になった敵本陣をつくっ!!
小僧狸:なるほど・・・それなら奇襲攻撃も効果を期待できますな。
団三郎狸:そこで、お願いがあります。
隠神刑部:なんですか!?
団三郎狸:奇襲部隊の前衛は、ぜひ、わたしとわが配下の狸20匹にお任せ下さい。
隠神刑部:その願いきけませぬな。
団三郎狸:しかし・・・
ただでさえ、奇襲部隊は被害をこうむりやすい。おまけに前衛とあらば、死ににいくようなものだ。通常こういった死ぬ確立が高い前線には、他国衆をおくのが基本なのである。
隠神刑部:団三郎狸殿は、我が兄弟。そのような危ない場所にやるわけには、参りませぬ。
団三郎狸:ですが、通常こういった前線には、他国衆がつくものと・・・。
隠神刑部:そちは、我が兄弟だっ!!他国衆などではないっ!!もう、この話は、終わりだっ!!
隠神刑部の有無を言わせぬ言に、団三郎狸は引き下がるより他なかた。
隠神刑部:団三郎狸殿には、別の仕事をやって頂きたい。
団三郎狸:と、言いますと・・・。
隠神刑部:海上にて、敵を叩いて頂きたい。これとて、敵の大部分を受けることになるゆえ、危険だ・・・やって頂けるか!?
団三郎狸:はい。必ずや敵を全滅させてみせます。
隠神刑部:それでこそ、団三郎狸殿じゃ。そして、傘さし狸。
傘さし狸:はっ・・・
さきのやりとりから、気を落としていたところに声をかけられたので、少し驚いたようになった。
隠神刑部:その方は、首吊り狸と金長狸とともに、奇襲部隊を率いろ。
傘さし狸:はっ!!
進言を退けられた者に、大役を任せて、自尊心を保ってやるのも大将の大事な仕事である。
隠神刑部:よしっ!!それでは、全員持ち場につけ。
こうして、隠神刑部率いる八百八狸の作戦は決まったのである。
さて、こちらは、いよいよ海岸を出航する妖鬼一族である。大小合わせて20隻の大船団である。小舟19隻には、悪鬼または、カラス天狗が5羽(匹)ずつ。1隻の大船には、玉藻の前・鎧武者・騎馬悪鬼3騎・武者悪鬼3匹・カラス天狗5羽である。
ココで、勘のいい方は、「あれ!?百鬼じゃない。」と思われるかもしれない。
そう。今回は、玉藻の前と鎧武者の護衛のため、別途騎馬悪鬼3騎・武者悪鬼3匹がついてきているのだ。
すでに朝日が顔を見せ、海に乱反射する太陽光がきらびやかである。
そんな中、無数の櫓が動き、大船団は淡路島の方へと徐々にその姿を消していく・・・。
いよいよ、淡路島の戦いの幕が切り落とされようとしている。
そして、このときっ!!頼光一行はというと・・・
少し覗いてみよう。
舞台は、急遽、越後国の国境付近へと移る。