御退散<中部・北陸編>
□第8章 淡路島の戦い『金長狸』
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空を色とりどりに飾っていた星も消え、すでに白み始めている。
ココは、海岸の奥にある洞窟の中。中には、6畳の畳が敷いてある。
その一番奥に足を横に投げ出して座るのが玉藻の前。
その左には、今回の戦の実質的な指揮をとる鎧武者。
2人の前には、地図が置いてある。どうやら、淡路島の地図のようだ。
ちなみに玉藻の前の正面には、海岸の砂に片膝をついたカラス天狗が2羽、こうべを垂れている。
鎧武者:・・・という作戦でいきます。あわよくば、淡路島を占拠いたします。
玉藻の前:「あわよくば、淡路島」など言わず、隠神刑部の首を取るのじゃっ!!
玉藻の前は、金毛白面九尾の化身であり、大のたぬき嫌いなのである。
鎧武者:なりませぬ。茨木童子様がおっしゃったよう、隠神刑部は、強力な神通力は、もちろん、戦術にも優れた妖怪でございます。
ちなみにこの鎧武者。頭を含めた全身を甲冑でおおった武士風であり、顔には、ほお当てをしているためガイコツである素顔は、よく見えないものの、ランと光る赤い目が印象深い。
玉藻の前:さようか。
プイッと横を向かんばかりの玉藻の前。強力な妖力の持ち主なのは、確かであるが、戦術に関しては、うとい。
鎧武者:では、外に控えている百鬼夜行の前に行きましょう。
玉藻の前:・・・。
すでに気を害されたのか。玉藻の前は、鎧武者の言葉に答えることなく、洞窟の出口へと向かう。部下としては、この上なく仕えにくい幹部なのかもしれない。
洞窟を出た玉藻の前と鎧武者の前には、すでに悪鬼80匹とカラス天狗20匹が整列している。
いわゆる妖鬼一族名物「百鬼夜行」である。
鎧武者:よいかっ!!これから攻めるは妖鬼一族の宿敵、隠神刑部率いる八百八狸だっ!!敵は、手強いっ!!皆の者っ!!命を惜しむなっ!!妖鬼一族の名こそ惜しめっ!!
アッキャァーっ!!
カァーっ!!
鎧武者の声に答えるかのような悪鬼たちの雄叫びが海を震わせるようである。
実は、この半刻ほど前のことである。
この百鬼夜行を見た漁師たちは、出航を断念し、一目散に家と戻っていった。
そんな中、一羽のかもめが海岸を飛び立った。行き先は、四国である。
ときは、ちょうど鎧武者が悪鬼たちに声をかけている頃である。
ココは、四国のとある山の中。生い茂る木々の中に隠れるように、1つの洞窟があった。
その中には、大小様々な狸たちがいる。
2匹の見張りの狸がいる入り口から中に入ると、そんなに歩く間もなく洞窟の一番奥には、ちょっとした広間がある。
その一番奥に座る威厳のある大狸が隠神刑部である。
首には、直径15cmはあろうかという大玉の数珠をさげ、僧侶のような服を身にまとっている。
そのすぐ側には、これまた2mはあろうかという大きな狸がいる佐渡の島を妖鬼一族に追われた団三郎狸である。変身技に優れているのは、言うまでもない(←東北・関東編を参照)
その前には、4匹の狸がいる。
八百八狸の最高幹部たちである。
名は、傘刺し狸・首吊り狸・金長狸・小僧狸である。
それらの前に片膝をついて報告する狸である。肩で息をしているのは、妖鬼一族がいた海岸から、かもめに化けて飛んできたからである。
若年寄という中堅幹部であり、下級狸たちにはない変身能力を持っている。
小僧狸:妖鬼一族の百鬼夜行と言うのは、確かか!?
若年寄:はっ・・・はぁ、はぁ・・・間違いございませぬ。
傘さし狸:率いる妖怪は誰だ!?
若年寄:申し訳・・・ありませぬ・・・百鬼夜行を見てすぐに飛んできましたので・・・
若年寄は、相変わらず肩で息をしている。
首吊り狸:分かった。ご苦労であった。下がって休め。
若年寄:ありがとうございます・・・。
報告が終わった若年寄は、下級狸の肩を借りて退出する。
傘さし狸:しかし、妖鬼一族は、数人の武士によって関東城を壊滅させられたと聞いているが・・・。
首吊り狸:う〜む・・・しかし、敵が攻めて来ているのも事実・・・。
金長狸:・・・。
小僧狸:さよう。妖鬼一族が攻めて来ているのが、事実であれば、それに応戦しなければ、なりますまい。隠神刑部様は、どう思われますか!?
今まで目をつぶって、黙って聞いていた隠神刑部が、ようやく口を開く。
隠神刑部:小僧狸の言う通りだ。直ちに応戦の準備にかかれ。
小僧狸:はっ!!
首吊り狸:問題は、敵がどう攻めてくるかだな・・・。
傘さし狸:そんなこと、敵が動かねば分かるまい。
隠神刑部:団三郎狸殿。どう思われる!?一度妖鬼一族と戦った経験のある貴公の話も聞きたい。
幹部狸たちの目が団三郎狸に注がれる。
同じ狸とは言え、今は、八百八狸の中にいる。遠慮して、黙っていた団三郎狸が隠神刑部に促されて、口を開く。
団三郎狸:敵は、百鬼夜行ということでしたな。
隠神刑部:さよう。
団三郎狸:戦うとすれば、淡路の山中ですか!?
隠神刑部:それが定石ですな。
団三郎狸:ならば、敵は、十中八九カラス天狗によるジュウタン爆撃で我らを目に見える所に引きずり出すでしょうな。
傘さし狸:ジュウタン爆撃・・・。
団三郎狸:さよう。変身能力を駆使して、地の利ある山中に敵を引き込めば、我らにも勝算がある。しかしながら、悪鬼と1対1で戦うとなれば、我らの勝算は薄くなる・・・。
首吊り狸:確かに・・・。
団三郎狸は、1度妖鬼一族と戦い敵の本陣をつくという戦いを繰り広げているだけに説得力がある。
ちなみに、最終的には、佐渡の島を追い出されて、この四国に隠神刑部を頼ってやってきたのだ。