御退散<中部・北陸編>
□第10章 清姫御殿 『蝶化身』
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ココは、信濃国のとある山である。
この山の山頂付近には、人知れぬ洞窟がある。実は、ココこそ、妖鬼一族の先鋒である清姫が、以前からひそかに建設していた拠点で、名を「清姫御殿」という。
その中身はというと、とても洞窟とは思えないものになっていた。壁こそむき出しの洞窟だが、柱があり、屋根もある。
洞窟の中には、いくつかの部屋が設けてある。
大型水晶がおいてある「通信指令の間」に、入り口付近の「武者だまり」。その他、「客の間」と「清の間」がある。
ちなみに清の間と客間は、下には、畳が敷いてあり、襖や柱など、ところどころに金が散りばめられている。
実は、この洞窟二階建てとなっており、上の洞窟には、下の洞窟の中の階段を使わないと上がれない。
上の洞窟は、一方は、山下のけしきを見下ろせるように壁はなく、他、三方は絶壁のようになっている。
ちなみに二階の洞窟は、狭く一室を設けてあるにすぎない。ココが「風の間」(かぜのま)である。
そんな中、ひじかけに腕を置き、満足げに鉄扇で顔に風を送っている者がいる。
そう。清姫である。
清姫:準備は、抜かりなくできていますわね!?
雲外鏡:はい。すでに表には、悪鬼を整列させておりますので・・・武者悪鬼も1匹出しております。
清姫:応対は、「客の間」でやりますわ。
雲外鏡:はい。「客の間」には、すでに亀姫殿が采配を・・・「客の間」に通ずる道では、長壁姫殿が采配をしております。
ちなみに、雲外鏡・長壁姫・亀姫は、清姫の側近衆である。
清姫:問題ありませんわ。なんといっても、今日は、大江山城から幹部の方々が来られます。粗そうのなきよう・・・。
雲外鏡:委細承知しております。
そう。今日は、清姫御殿の御披露目のために酒呑童子以下の幹部陣がやってくるのだ。
しばらくすると、洞窟の表から声が上がった。
幹部の方々っ!!御到着っ!!
すでに、表では、武者悪鬼を含めた悪鬼たちが直立不同に立っている。
幹部陣の案内をするのは、清姫の側近である長壁姫である。
長壁姫:今日は、遠路はるばるご苦労さまでございます。ご案内いたします。
茨木童子:うむ。
幹部陣は、洞窟の中を見渡しながら進んでいく。
そんな中、清姫が応対に現れた。
清姫:よくぞお出で下さいました。まずは、「客の間」へ。すでに料理を用意させております。
一行は、「客の間」へと入った。
例のごとく一番奥の一段高い畳みに酒呑童子が座す。その前に左右に別れて茨木童子、大天狗、玉藻の前、三目八面が座る。清姫は、末席に座る。
それぞれの前には、すでに食膳の台が置かれている。
部屋を見渡した酒呑童子が口を開く。
酒呑童子:この「客の間」・・・洞窟とは、とても思えぬ出来だな。
茨木童子:まるで、城の一室だ。
玉藻の前:おまけに、適度に散りばめられた金が、またよい・・・わらわは、気に入ったぞえ。
清姫:はっ!!ありがたきお言葉・・・
大天狗:おまけに堅固な要塞だ。例え、頼光一行が攻めようと、簡単には落ちないでござる。
三目八面:おまけに、通り過ぎようとすれば、洞窟から打って出て、背後を襲うことが出来るか・・・
玉藻の前:清姫っ!!よくぞ、この御殿を作ったっ!!わらわも鼻が高いぞよ。ちこう寄れ。褒美を渡す。
清姫:はっ・・・
清姫が平伏しながら、玉藻の前から金三両を受けとる。
すでに、食事は、運ばれ、それぞれに口にする。
幹部陣も食事がおいしいせいか、会話もはずむ。
茨木童子:ところで、関東戦線のことでございますが・・・
玉藻の前:そうじゃ。関東戦線は、どうなっているのかえ!?関東戦線の指揮を取っている三目八面殿もココにおる・・・。
三目八面:・・・。
茨木童子:実は、最近、関東戦線で指揮を取っていた三目八面から連絡があった。
連絡とは、もちろん水晶での連絡のことである。
茨木童子:実は、灰ババァが、帰属を申し出てきた。
大天狗:灰ババァと言えば、奥羽国でも屈指の妖怪・・・今までは、中立を保っていたと聞いてござるが・・・
茨木童子:すでに関東の半妖鬼一族の勢力は、アラカタ三目八面が制圧済み。灰ババァには、武者悪鬼1匹にカラス天狗2羽、悪鬼30匹をつけ、残り掃討をさせようと思う。
大天狗:それは、いささか多すぎるのではごらぬか!?帰属したばかりの妖怪にそんな部隊を・・・
茨木童子:さよう。裏切る可能性も十分あります。それゆえ、関東城主にしようとは、思いませぬ。関東戦線が片付き次第、対頼光戦線に投入しましょう。関東城主には、本拠城所属の家臣を配する予定です。
玉藻の前:裏切った場合は、どうするのかえ!?
茨木童子:すでに弱点も調査済です。
大天狗:なるほど。さすがは、茨木童子殿。抜け目がないでござる。
酒呑童子:茨木童子よ。
茨木童子:はっ!!
酒呑童子の方に体を向けた茨木童子が答える。
酒呑童子:関東戦線は、とりあえず、それでいけ。問題は、頼光一行だ。