†恋に落ちた海賊王†


□大好きなあなたへ
1ページ/1ページ


私は小さく深呼吸をすると航海室のドアをノックした。

そしてドアの隙間から顔だけ出して声をかける。


「あの…シンさん?」


シンさんはいつものように背筋をビシっと伸ばして机に向かっていた。


「なんだ?」


振り向いてもくれないのでその背中に話しかける。


「えっと…ですね。つかぬことをお伺いしますが…シンさん、今晩は不寝番ですよね?」

「それがどうした?」

「ん〜別に…もう一度ちゃんと…確認しようかな…っと!」


シンさんが上半身だけこちらを向けて私を見た。

うわっ!物凄く不機嫌そう。

私はえへへと曖昧に笑うと、


「失礼しましたっ」


首をすくめドアを閉めた。

はあ。びっくりした。まだ胸がドキドキしている。

すると閉めたはずのドアがいきなり開かれた。


「!!」


目の前には組まれた腕。

ゆっくり上目遣いに見上げるとシンさんが無表情で立っていた。


「えっと…」


思わず後ずさりしようとする私の顎をくいっと持ち上げ、シンさんは冷たい瞳でじっと見つめる。


「まさか俺がいない間に男を引っ張り込もうとか思ってるんじゃないだろうな?」

「へ?」


シンさんの的外れな発言についキョトンとしてしまった。

その反応がまたシンさんを苛立たせてしまったみたいで。


「どうなんだっ?!」

「ち、違いますっ」


シンさんの怒りを恐れ私はぶんぶんと首を振った。

それでもシンさんは不審そうに私の顔を見ている。


「あ、あのっ。私、夕飯の仕込みを手伝わないと!!」


私はシンさんの視線から逃げるように厨房に向かった。




夕飯の仕込をするナギさんはテキパキと手際がいい。

私はそんなナギさんに話しかけるタイミングをさっきから窺っていた。

シンさんは大丈夫だったけど。

ナギさんは…どうだろう?


「あの…ナギさん?」

「なんだ?」


ナギさんが私をチラリと見る。

私はなるべく平常心を保って尋ねた。


「バレンタイン…って知ってますか?」

「…いや」

「女の子が好きな人にチョコをあげる日なんですけど」

「……」


ナギさんは全く興味なさそうにお肉を炒め始めた。


「それでお願いなんですけど。後で厨房を使ってもいいですか?」

「…ああ」


よかった!

私は思わずバンザイしたくなるのをぐっと飲み込み、ナギさんにお礼を言って夕飯の支度を再開した。




夕食後、シンさんが不寝番に出かけたのを確認し、そっとクローゼットの奥から紙袋を取り出した。

この間、港の市場でこっそり買っておいたチョコレートと色とりどりのラッピング材料。

綺麗なリボンはひとりひとりのイメージに合わせて選んだもの。

明日のバレンタインに生チョコを作ってみんなにプレゼントする計画を立てていた私にとって、一番の難関はシンさんだった。

当日まで秘密にして、シンさんをビックリさせたいのもあるけど。

シリウスのみんなにもプレゼントするって言ったら絶対に反対するもん。

「言うことを聞かないと海の藻屑にするぞ」って。

シンさんの以外は『感謝チョコ』ですって説明したところでシンさんが不機嫌になるのは目に見えているから…。

名づけて『シンさんが不寝番のうちに作ってみんなに渡してしまおう作戦!』なのだ!



厨房を借りるからナギさんには事前に説明しておこうって思ってた。

それにしてもナギさんがバレンタインのことをよく知らなくてよかったな。



私は紙袋を抱えると厨房に向かう。





「ナギさん!厨房を貸してください!」

「ああ、好きに使え」


私は紙袋から板チョコを取り出した。

それ見てナギさんが不思議そうな顔をしている。


「何作るんだ?」

「え?えぇと―……生チョコを…と思いまして」

「ふーん」

「ナギさん、知りませんか?」

「知らねぇ」

「知らないですか?!………良かったぁ」

「何か言ったか?」

「い、いえ別に!」


私は顔の前で手をパタパタ振る。

うまく誤魔化せたかな?

心配になってナギさんをちらっと見たら不審そうな顔をしている。

さっきはシンさんに不審そうに見られたっけ。

気をつけなくっちゃ!

私はなるべくナギさんから見えないよう体で隠すようにしてチョコを湯煎にかける。

ゆっくり丁寧にひたすら混ぜて…。

でも背中に痛いほどナギさんの視線が突き刺さってる。

きっと心配しているんだよね?

だってここはナギさんの大事な仕事場。

私がドジって厨房を汚したりしないか不安で、ずっと見ているんだろうな。

申し訳ない気持ちになった私は思い切って振り向く。


「……ナギさん?」


わわわ。いきなり目が合っちゃってすごく気まずい。

絶対に汚しませんなんて断言できないし…。

汚さないよう気をつけます!の方がいいかな…?


「どーした」

「い、いえ何でも…」


先に声をかけられ、つい慌ててしまった。

動揺を隠すため私は型を次々と並べ始める。

それを見てナギさんが不思議そうに訊いた。


「ん?お前…」

「はい?」

「数、どう見ても多くないか?」


あーあ!ナギさんにも秘密にしておきたかったのに!

厨房を借りている時点でいつバレても仕方がないと覚悟はしていたけど。

でもやっぱり残念だな。


「えっと……皆さんにと思いまして…」

「え…」

「ホントは、内緒にしときたかったんですが、ナギさんにはバレても仕方ないかなって…」

「……」

「皆には内緒でお願いしますね?」


私はナギさんに頼んだ。

だってみんなの驚く顔が見たいから!

ナギさんは私の顔をじっと見ると呟いた。


「………さんきゅ」


あまりに小さな声だったので私はつい聞き返してしまう。


「え?何ですか?」

「いや、何でも」


ナギさんの頬がほんのりと赤い。



確かさっき「さんきゅ」って言ったんだよね?

そうか。ナギさんは甘いものが好きだったんだ!

じゃあ腕によりをかけて美味しい生チョコ作りますね!!



私は心の中でナギさんに返事をした。


END.







スーさまの主人公ちゃんsideでした★
スーさまのサイトdaydreamer 恋海で、私のナギさんsideを読む事ができますv是非vv

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ