†恋に落ちた海賊王†


□たった一つの奇跡を
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「雪か…」




毎回、同じ季節が巡ってくるのに


今年は何でか、無性に

………寂しい





【たった一つの奇跡を】









季節は冬。

ふと立ち寄ったこのメリー島の12月25日は、ヤマトと変わらない雰囲気がある。

サンタの住む島といわれている、この島。




「クリスマス…か」



リカーの船員達は、それぞれ目的を果たすために上陸と同時に蜘蛛の子を散らす。


別に目的がある訳でもない俺は、街の明るい雰囲気の中を、どこか虚しさを感じながらぶらつく。



懐かしいな。

ヤマトにいた頃は、家族と暖かい暖炉を囲んでクリスマスを過ごしていた。

母さんと妹は、料理やケーキを作り、父さんと俺はツリーを用意したな。



「……バカバカしい」



滅多に思い出さない過去に気を取られ、ふと我に返り自嘲する。

過去の幸せ等、とうに忘れたつもりでいたのに。




「…あいつは、どうしているんだろうな」




シリウスの奴らと、楽しくやっているだろう…初恋の相手。

やけに虚しさを感じるのは、お前と出会った慶びを知った後だからなのだろうか。

この季節の寒さが、一層その空虚な心を追い詰める。




シリウスの奴らに囲まれて、華のように笑うお前。

俺には感じる事の出来ない幸せを、あいつらは持っている。


それが妙に腹立たしくて…。


いつからこんな想いが芽生えたのだろう。








会いたい…


会いたい…



そう思えば思う程、



「寒い…」




熱い想いは溢れるのに、その想いに凍えてしまいそう。





本当にサンタがいるのなら…大人な俺だけど、切なるこの願いをどうか叶えて欲しい。



らしくないな…と、また自嘲した。














『ロイ様!この酒場にしますか?』



いつの間にか合流した仲間達と、酒場へ向かう。

平然を装うが、一度感じた虚しさは消える事はなく。


酒場に入ると、暖炉が見えた。




「う〜っ寒い寒い!!寒すぎだろ、この島は!」



暖炉に駆け寄り、前にある椅子に腰を下ろす。



ホントは己の心が寒いだけ。

この炎が溶かしてくれれば、それでイイと思った。





『っロイ船長?!』


「…え…ッ!!」




聞き覚えのある声に、思わず勢いよく横を見る。


すると、俺の隣には愛しい顔。


不思議そうにして俺を見ている顔でも、俺には女神のように見えた。




   ああ、会えたのか…





『…ロイ船長?涙が』




胸が熱い。

目頭が熱い。


熱い想いが込み上げてくる。




「こ、これは…暖炉の炎の熱が、冷えた目に滲みただけだ!」






今のお前に、俺への気持ちはないのは解っている。


その筈なのに。



お前に一目会うだけで、虚しさで凍った心が全て溶かされていく。


何故なのだろう…。












なぁ…お前の目に映る俺は、どんな風な顔をしていた?




……幸せそうか?





俺の想いは、どこまで伝わるのだろう。





こんなにも、愛しているのに……




END.

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