pkmn novels
□ドルトニズムな世界
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※現代パロ
こう、なんていうか、口で説明のしようがない感じなんだ
困ったように眉を下げて苦笑するレッドの手には万華鏡が握られていた。くるくる回すと色彩溢れた世界を鮮やかに変化させていくそれを見てもレッドはその色彩の一つも理解できないし、感嘆の息をもらすこともないのだ。
レッドが色を知らない、ということを知ったのは極最近の話である。
付き合いは小学校低学年のころからだというのに、だ。
それも、知ったのは彼の口からではなく、ふとした拍子でレッドの母親が漏らした言葉から。
――色盲。
俺の幼なじみであるレッドは所謂色盲だった。
色盲のほとんどは赤緑色覚異常らしいが、レッドは稀な全色盲で、つまり俺やほとんどの人間が感じる世界を、レッドはモノクロで見ている。
濃淡の加減があるから、黒色と灰色と白色の三色があると言われても、レッドは僅か三色を駆使して世界を生きているということになる。
このことに関して、なんで黙ってたんだ、とか、友達なのに、とかそういう無知なことは思わなかった。
誰にだって言えないことの一つや二つを持っているのは当然だし、俺がレッドの立場だったら言えるかと言ったら、それはノーだ。
他人が当たり前に感じる感覚を理解できないということは、暗闇に一人取り残されたような孤独感を味わうことに似ていると思う。これは俺の価値観であってレッドがどう思っているかは知らないけれど。
俺に今まで話さなかったということは、つまり触れられてほしくなかったということだから、だから俺はレッドが色盲だと知っても何も聞かなかったし、今まで通りに接した。
でも一度だけ、好奇心に負けて思わず聞いてしまったことがある。色盲とはどんな感じがするのか、と。
それはクラスメートの一人がお土産にと買ってきた万華鏡を俺とレッドに手渡した時のことだ。
それがレッドの手に渡った時、俺は内心ひやひやとしたが、レッドは少し覗いた後、綺麗だなといつもと変わらない笑顔で笑っていた。
その時の笑顔に年季がはいっているのを感じて、今までもこうして隠してきたのかと少し寂しいような気持ちになった。
その後、下校途中に万華鏡をくるくると回しながら、模様が変わって面白いなと笑うレッドに聞いたのだ。
不躾な質問だったと思う。
でも聞かずにはいられなかったのだ。
レッドには世界がどう見えるのかと。
例えば今にも雨が降りそうな空模様とか、赤黄色に色を変えた木とか、そういうものに綺麗と感じる感情を、レッドだけが味わえないなんて不公平だ。
何故だか泣きたくなるような気持ちに襲われたから、強く手を握りしめた。
レッドは説明のしようがないと言った。
生まれてからずっと、オレはこういう風にしか見たことがないからグリーンのいう色がわからないんだ。
結局は俺もレッドも同じなのだ。
俺がモノクロの世界を見たことがないからわからないのと同じように、レッドはカラフルな世界を見たことがないからわからない。
色がないというのがレッドの常識なんだ。
カラフルな世界をもつ人間が多いからそれが当たり前のように感じる、カラフルとモノクロのどちらを感じる人が多いのか、ただそれだけの違い。
どんな理屈でも多数の人間が支持しているものの方が真実であるように見えるのと同じなのだ。
異常なんて言葉は常識に依存した人間の吐く言葉だ。価値観や常識のもとづくそれが人それぞれ違うだけだ。
そう思ってから、俺とレッドは価値観を分かち合うことができないとか、そういうことは考えなくなった。
価値観がまったく合う人間などいないのだから、俺とレッドもお互いに理解できないことがあっていいのだ。レッドが笑う俺が笑う、それでいい。
ただ、レッドが困っている時は助けてやろうと思うし、レッドの世界を知ってみたいとも思う。
そう、それだけでいいのだ。
ドルトニズムな世界
(なにも綺麗なのは色彩だけではないのだから)
(君が心から笑っていてくれれば、そう願う)
―――――
何が書きたかったんだろう。