Love*Life

□マイペースママ
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妊娠発覚から数週間後のある日。
引越し準備に追われている桜木と流川。
「これはもう古いから良いな。こっちは……」
畳に座り込んだ桜木の周りには、プロレスやらバスケットの雑誌が積み上がっている。
その山からひょいっと掴んだのはたまごクラブの最新号。
「お、これは捨てねえ方が良いな」
流川の妊娠と同時に大急ぎで手に入れた一冊だ。桜木は大事そうに自分の脇にそれを置いた。
「おい」
「んー?」
雑誌の仕分けをしていた桜木を呼ぶ声が。
声の先に顔を向けた瞬間、桜木の顔が真っ青に。
「ゲッ!」
桜木の視線の先では、流川が細身のジーンズに足を通して懸命にファスナーを上げようとしていた。
「ファスナーが上がらん」
「やめろやめろ! 子供が窒息するだろ!!」
慌てた桜木は流川に飛びつくと、ファスナーを上げている手を押さえた。
「太ったか…?」
「違う! 妊娠してんだから腹がでかくなるに決まってるだろうが!」
「なるほど」
何が「なるほど」だ。
桜木は冷や汗をかきながら流川に自分の状況を伝えるが、流川はまるで自分が妊娠している事をすっかり忘れているような素振りを見せている。
「ジャージを履け、ジャージを!」
「分かった」
ジーンズを脱いだ流川は、それはもう面倒臭そうにジャージに履き替え始めた。
その姿を遠い目で見つめる桜木。
「ったく、お前って奴は……」
そしてふかーい溜息。
こんな調子で大丈夫なのかと不安になった桜木だった。


それから数年後。
「おとーう! しっこーー!!」
トイレの前でジタバタしている櫻太を見つけた流川は急いで櫻太をトイレに連れて行く。
(あの頃はどうなるかと思ったけど、立派な母ちゃんになったもんだなぁ……)
「とと、ととっ……」
「ん?」
感慨深く流川の様子を眺めていた桜木だったが、ジーンズをくいくいと引っ張る感覚に視線を下げると、そこには少し顔を赤らめた楓太が涙目で立っていた。
「どうした?」
「ちっこ」
「ふうもか!?」
コクコクと頷く楓太。
慌てた桜木は楓太と抱き上げると二階のトイレに向かって猛ダッシュ。
「頑張れふう、もうすぐトイレだぞ!」
そしてしばらくして二階から声が漏れてきた。



あぁー…間に合わなかったかぁ……。

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