聖書と天才

□君と演じる喜劇
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初めて出会ったあの運命の夏の日。
僕と君とを隔てていたのは、風に揺れる薄いネットだった。
鬱陶しいほどの夏の暑さに、涼しい風がとても心地よかったのをよく覚えている。


そして今、僕の部屋で机を挟み対峙する僕ら。
向かい合った白石の顔はあのとき同様真剣そのもので。
だから、僕も本気で挑ませてもらおうと思う。


「用意はええか?不二くん」
「うん。いつでもOKだよ」
「…確認するで。先に3ゲームとった方が勝ち、負けたほうが勝ったほうに絶対服従。ええな?」


いつもより低く響く白石の声に、ゾクゾクしてくる。
…こんなスリル、滅多に味わえないよ。

挑戦的な目を向けてくる白石に、僕は負けじと口元に笑みを浮かべて


「了解。…クス、負ける気がしないよ」
「…相変わらず負けん気強いなあ、不二。…ほな行くで」


組んでいた腕を解き、左手を振り上げる。
僕もまた、床に置いていた手を机の上に出し、臨戦態勢を整えた。
僕と白石の口が同時に開く。そして



「「最初はグー!じゃんけん、ぽい!」」






君と演じる喜劇






一回目の勝負の結果、僕の右手は全ての指がしまわれており、一方白石の左手は五本の指が出されたままだった。
白石は会心の笑みを浮かべると


「んんーっ!エクスタシー!まずは俺の勝ちやな」
「…まだ一勝、でしょ?」
「どうやろなぁ。このままストレート勝ちかもしれへんで」


そう言ってクックッと笑う、ものすんごいどや顔がイラつく。
余談だけど、彼はどや顔が半端なく上手い。
吊り上げられた唇の端の角度だとか、少し傾げた首の角度であるとか、正に教科書通りの完璧などや顔。
それがまた気に食わないのだ。

僕は彼の世間的にはイケメンとよばれるであろう馬鹿面を思いっきり睨みつけると


「ほら!2ゲーム目やるよ!」
「本当に負けん気強いな。そういうところが可愛いんやけど」
「うるさい!さっさとやるよ!」


ニヤニヤと笑う白石に、今度は殺意に近いものを感じる。
僕はイライラを押さえつけるように大声で


「最初はグー!じゃんけん、ぽん!」




今度は、僕の手は大きく広げられて「パー」を示し、白石の手は二本の指で「チョキ」をあらわしていた。
…二度目の敗北。
そして、彼の二度目のどや顔。


僕は八つ当たりに近い感情で白石の足を蹴る。もろにヒットした白石は一瞬痛みに顔を歪ませた。
ちょっとは心が痛んだけど、とりあえず僕はあのどや顔をやめさせることが出来たので満足だ。
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