聖書と天才
□嘘つき
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初めて見たときから、男の癖にえらいべっぴんさんやな、っと思っていた。
正直、この細腕になら楽勝や、とも。
でも、違った。
追い詰められてからの、がむしゃらに勝利を求める気迫あふれたプレイ。
試合中に新たな返し球を生み出し、それを華麗に決める技術。
前へ前へと進化しようとする、孤高の精神。
…ただ、美しいと思った。綺麗だと思った。
強いと、思った。
早く試合が終わって欲しいような、永遠に続けていたいような、不思議な気分だった。
勝敗が決した後も、不二周助は強く、気高く、美しかった。
そして、
もっと。
もっと、と
彼のことを知りたくなった。
この気持ちは何だろう?
輝く宝石に惹き付けられるような、この思いは。
もしかして、俺は…
「なんや、不二のこと見つめて…まさか、不二に一目惚れでもs
「はあ!?何言うとんねん!?」
考えていたことを謙也に言われ、激しく反応する白石。
「俺が男に!ないないない!ユウジらと一緒にすなーっ!」
むきになって絶叫する白石に、騒いでいる何人かが振り向く。
「…ちょっとした冗談やんか。そない過剰反応、ますます疑惑が深まるで」
謙也は呆れたように呟くと、再び喧騒の中に戻っていった。
白石はそれを見届けると、脳内で必死に言い訳する。
(そうや!俺が不二に一目惚れなんてありえへん!俺は健全な完璧男!やから、俺が不二に)
「白石〜♪」
「!」
ひょこん、と現れたのは、先ほどの失言によりバッシングを受けた菊丸。
いきなり出てきた彼に、白石は面食らった。
「…なんや、菊丸」
「白石、さっきからずーっと不二のこと見てるでしょ?」
「!…そんなこと、あらへんよ!」
ズバリと図星を当てた菊丸に対し、白石は動揺して声が裏返る。
「ぷぷっ、わっかりやすいにゃ。試合終了後から見つめてたよね?焼肉の最中も」
「ぇ、はあ、そんな、俺はやな…」
「今も、金太郎くんのことめっちゃ睨んでたし」
「ちゃう、ちゃうってちゃう!」
「ふっふっふ、ズバリ、白石は…
不二のメアドが知りたいんでしょ?」
「え?」
てっきり、自分がホモだと言われると思っていた白石は、思わず聞き返した。
「…違うの?」
「え、いや、そうや!ライバルとして、連絡先の交換ぐらいはええかなーと思って」
「それなら、さっさと聞きに行けば良かったのに。それ、いこいこ!」
白石は手首を掴まれ、菊丸のあとに続きながら
(そうや、俺は不二くんのメアドが知りたかったんや!無論、ライバルとしてな。あー、全く…ユウジらと同類か思っていらん心配したわ。阿呆らし…)
と、何か違うような気がしながらも取り敢えず自分を納得させ、不二のもとへと急いだ。