聖書と天才
□Reunion
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眼下の車の動きが、だんだんと活発になってきた。
少しずつ、街が動き出す。
僕の後ろを通り過ぎる人も、それと呼応するように増えていく。
何もせず黙ったまま通り過ぎていく人。
携帯電話を弄りながら通り過ぎていく人。
立ち止まったままの僕を珍しそうに眺めていく人。
この世界にはいろんな人がいるが、本質的な色はみんな同じ。
『普通』、あるいは『一般』というくくりでまとめられる。。
でも、例えば僕の背中を押して突き落とそうとする人がいるとすれば、それは間違いなく僕、いや僕らと同じ色をしていることになる。
『異質』、『特殊』、そして『異常』。
これが、僕の色だ。そして、昨日であった彼の。
だから、今更真人間に戻ろうったって無理な話なのだ。
初めから色の違う場所に飛び込んでも、何も変わりはしない。
『異質』は『異質』同士、互いに寄り添って、『異質』な集団を作っていればいい。
まだ集団になるほど自分と同じ色に出会ったことはないけれど。
だが、少なくともこの世にもう一人は同じ色を見つけた。
自分と同じ、綺麗な過去に囚われたままの。
本格的に目覚めた街と、激しい車の往来。
いっそ飛び込んでしまいたくなる。
こんな風に思考が飛び飛びなのは、随分前、本格的におかしくなった頃からだ。
一つのことにあまり集中できず、たくさんを見てたくさんを考えて、
何を思っても結局、辿り着くのはいつだって無。
歩道橋の手すりから大きく身を乗り出す。
僕の後ろを通っていった通行人が振り向いた。
ここから落ちたら、頭打って死ぬのか、あるいはそれだけでは死ななくて、車に轢かれて死ぬのか。
久しぶりに、何かに興味が湧いた。
暗い興味に導かれるように、身体が前のめりになっていく。
でも。
死ぬっていう結果は同じじゃないか。
そう思った瞬間、急速にその疑問への関心は薄れていった。
が、そのときには。
僕は重力にしたがい、ゆっくりと落下を開始していった。