聖書と天才
□ある日の天才たち
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ある日の天才たち
蔵不二、謙光前提財前+不二
今日は、どこまでも晴れた蒼穹が広がる絶好のテニス日和。
…ちゅーことで、既に引退した先輩方が指導に来てくれた。
そしてその中には、白石部長に連れてこられたであろう『あの人』もおった。
「あー、えーっと、お手柔らかに…」
なんて、にっこり笑って挨拶しはったけど。
実際、こっちがお手柔らかに願いたいぐらいや。
青学の天才・不二周助。
その名は伊達やなかった。
美しく決まる鮮やかなカウンターの数々に、俺らも思わず見惚れてまう。
せやけど、本人はまだまだ余裕の笑みを浮かべとるんや。
それは、俺ら相手にまだ本気やないっちゅうこと。
俺は、それがめっちゃ悔しかった。
俺にやって、『四天宝寺の天才』としてのプライドっちゅうモンがあるんや。
…ってなワケで、俺は不二さんが苦手やった。
同じ『天才』でも、格の違いを見せ付けられた気がした。
あの胡散臭い笑顔にも腹が立った。
きっと、それは初めから強烈なコンプレックスを感じとるからやろうけど。
昼飯を食い終わって、午後の練習再開直前。
ベンチに腰掛け、コートの方を眺める。
次の試合は…っと、師範と二年の中では中堅の位置におる奴。
――この勝負、あったな。
アイツなら零.五式で十分や、と我ながら酷いことを思いながら、対戦表の自分の名前を探す。
次のつぎ、…ウゲェ、白石部長とや。
んで、そん次が謙也さん…と不二さん。
つまりはスピードと技。…これはオモロそうやな。
その後の試合もチェックしていると、突然太陽の光がすっと遮られた。
驚いて見上げると、澄んだ青と目が合う。
何となく分かっとったけど、不二さんや。
一度目が合うと、なかなか逸らすことができへん。
それほどまでに、思わず引き込まれそうな深海みたいな目。
それが、ふっと細められ、特有のあの(俺にとってはちょっと苛つく)笑みが浮かんだ。
「財前くん。隣、いいかな」
「…ええですよ」
「ありがとう」
横に置いてあったタオルやらペットボトルやらを移動して、どうぞ、と手で示す。
不二さんは俺の隣に座ると、俺が見とった対戦表を見ながら
「珍しいね。謙也くんと一緒じゃないんだ」
その言葉に、俺はスポーツドリンクを吹き出しそうになった。
「…部長から何吹き込まれたんか知りませんけど、俺らいつも一緒に居る訳やないんで」
「そう?とっても仲が良いって聞いてたけど」
「あの人がベタベタしてきよるだけっすわ」
「ふーん」
不二さんはくすっ、と笑うと、対戦表から目を離し、試合を見始めた。
師範に何度吹き飛ばされても、果敢に挑んでいく二年。
何や、アイツ見込みあるやん。根性だけやけど。
ぼーっと眺めとると、視界の隅に謙也さんと白石部長が見えた。
「…不二さん」
「ん?」
「アンタこそ、部長と一緒やないんですね」
なんでこないなこと訊いたのかはわからん。
ただ、この人らのバカップルぶり…ちゅうか、部長の求愛ぷりはよう聞いとった。(別に聞きたないけど)
不二さんはともかく、ウチの変態部長は間違いなく不二さんについて来はりそうや思っただけ。