鮮血のように真紅の花を

□運命が動き出すまで
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真っ青な、あの空。
6年前と同じだ。
でも、


あいつがいない。

俺の世界に、あいつはいない。
俺の、大切な大切な、初めての友だち。


お前は今、何処にいるんだ…。






運命が動き出すまで






皇暦2016年、7月10日。


着替えを済ませたナナリーが、咲世子とキッチンに向かうと。
普段はクールな兄の、滅多に聞けない鼻歌が聞こえてきた。


「おはようございます、お兄様」
「!……ああ、おはよう、ナナリー」


目は見えなくても、ルルーシュがかなり浮かれているのがすぐわかった。
おそらく今も、満面の笑みでこちらを見つめているのだろう。


「お兄様、今日はご機嫌ですね」
「…わかるのか?」
「ええ。お兄様のことならなんでもわかりますし、何より今日は私たちにとって1番大切な日ですから」




大切な日。

ルルーシュ、ナナリー、二人にとって1番大切な人が生まれた日。


「すごく甘いにおいがしますね。ケーキですか?」
「ああ。いま、焼いていて…ホイップクリームをつくってるんだ」
「なにか、お手伝いできることはありますか?」
「そうだな……じゃあ、チョコに名前を書いてくれるか?」


ルルーシュに手を支えられながら、ナナリーは愛おしそうにその人の名をチョコペンでかく。


「あっ」


ふっと手がずれる。
見えなくとも、名前が崩れてしまったのがわかった。


「どうしましょう…変な風になってしまったでしょう?」
「いや。そんなに酷くないし、こういうのは気持ちが大切なんだ。それに、あいつはこんな些細なこと気にしない。
「ふふっ、確かに」


ナナリーとルルーシュの脳内には、


『いいって、いいって!』


とぶっきらぼうにいう少年が浮かぶ。
もっとも、ナナリーの場合は、顔がぱっくり空白になっているが。


「お、ケーキが焼けたみたいだ」
「トッピングのお手伝いをしても?」
「ああ、頼む」


きゃっきゃっとケーキを作る兄妹を、咲世子は温かい目で見守っていた。
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