鮮血のように真紅の花を

□Blank
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時刻は朝8時半。
俺が恋人と共に喫茶店でモーニングコーヒーを楽しんでいると、すぐ傍の歩道橋で自殺騒動があった。


文章で書けば、たった一行で終わる事象だ。
だが内容は人一人の人生を大きく左右すること、というよりその終焉。








Blank







もう一時間近くもそこに立っていた彼女(体格からみておそらく女性)に、店内に居たほぼ全員が注目していた。
が、その大半は心配からではなく野次馬根性、つまり好奇心から彼女をみていた。



俺はというと心配でもなく好奇心でもなく、こんなところで死んだら周りに迷惑だろう、とため息をつきながらさほど興味も無く、恋人の課題を手伝っていた。
もっとも、それの殆どを俺がやっているわけだが。


一方で、課題を俺に押し付けた恋人の方はおそらく店内で唯一純粋な心配の目で彼女を見つめていて、今にも飛び出して説得に向かいそうな勢い。
俺の恋人は優しくて、それゆえに若干お節介な傾向がある。

基本的に、身内にしか興味を抱かない俺とは正反対だ。


というか、そもそも自殺者と決まったわけでもないのに、恋人も俺も周囲もなんとなくそうと悟っていた。


纏うオーラが、明らかに俺たちとは違っていて。
色で例えるなら、それは果てしなく続く曇り空のような灰色だ。







やがて、彼女の身体はゆっくりと前のめりになり、そのままゆっくりと落下していった。
その様子は、窓際に座っていた俺たちからもよく見えて。


店内の女性が叫び声をあげた。

目の前の恋人は窓にへばりついて目を見開いた。
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