全ての愛を君に捧ぐ

□目下、一方通行で恋愛中。
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何時もは微笑んでいる彼の、時折見える本気の瞳が好きだった。
高みを目指す彼に相応しい、どこまでも高く広がる蒼穹の瞳が。
底知れぬ実力に相応しい、どこまでも深く沈む深海の瞳が。

その瞳に映りたかった。
その瞳に、俺だけを映して欲しかった。


でも、
彼の瞳に映っているのは、何時だって俺じゃなくてあの人だ。






「かーっ、今日の練習もキツかったー!」
「おいおい、あの程度でへばってんのか?」
「桃先輩だってひいひい言ってたじゃないすか」
「うるせーぞ越前!」


関東大会に向けた、乾先輩主導の激しい練習が終わり。
部室に戻ってきた頃には、太陽が傾き空は鮮やかな橙色に染まっていた。


今室内にいるのは、俺と桃先輩と、喧しい一年トリオ。
堀尾が「練習がキツい」なんて言っているけど、レギュラーである俺や桃先輩は少なくともその三倍以上キツい練習をこなしている。


「しっかし、すげーよなぁ越前は。レギュラーの練習にもついてこれてるし、俺らが一年かけて掴みとったレギュラーの座をあっさり手に入れちまうし…。くそ、こいつ〜!」


そういって桃先輩は俺の頭をぐしゃぐしゃと撫でた。
髪が乱れるのは嫌だけど、遠回しながら褒められ認められているのは伝わってくるので、抵抗はせずされるがまま。


桃先輩はいい人だ。
生意気な自分に何かと構ってくれるし、明るくて面白くて威張らないし、十分に実力もある。
俺がこの青学テニス部に馴染めたのも、先輩のおかげだ。

でも。
本当に褒められたいのは、認められたいのは、


「クス…みんな、お疲れ様」


タイミングよく響いた声に、大袈裟に体が跳ねた。


「あ、お疲れっす!不二先輩!」


戸口に立っていたのは、青学の誇る天才・不二周助。
亜麻色の髪を揺らし、相変わらず綺麗に微笑を浮かべている。
一見非力に見えるが、その実力はこの間痛いほど味わった。

そして。
その強さに、その美しさに、惹かれずにはいられなかった。


一歩一歩こっちに近づいてくるたび、高鳴る鼓動。
すれ違い様に漂ってきた芳しい汗の香りに、大袈裟ではなく卒倒しそうになった。


「桃、海堂が校門で待ってるみたいだけど…」
「げ、いっけね!アイツぜってー怒ってるよ…」


桃先輩は大急ぎでテニスバッグを持つと、「お疲れ様でしたぁー!」と叫んで部室から出ていった。

そういえば、今日は海堂先輩と帰るって言ってたっけ。
妙に嬉しそうだった、あの顔を思い出す。
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