全ての愛を君に捧ぐ

□ご褒美
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関東大会会場から青春台までの帰りのバス。
殆どのメンバーが疲労のあまり爆睡するの中、不二は一人夕焼けに染まっていく街並みを眺めていた。
そして、彼の肩に凭れている越前も、目を閉じているだけで実は起きていた。
二人の手は、互いの利き手同士が繋がっている。


「やっぱり君は凄いや。あの皇帝に勝っちゃうんだから」
「まあ、強かったっスけど。あんなの、まだまだっスよ」
「くすっ、君らしいや」


囁くほどの小さな声は、すぐ後ろの桃城のいびきにかき消されそうだ。


「それより、…アンタ」
「ん?」


越前はあっ、と思い出したように頭を上げると、不二を真っ直ぐ見据えた。
バスの窓ごしに、二人の視線が交錯する。


「あの切原って奴のときさぁ、怒ってたでしょ?」
「…まあね」
「何で?」
「……分かってるくせに、訊くんだね」
「アンタの口から聞きたい」


そういってにやりと笑った越前に、不二は呆れたように笑いながらも越前の方に振り返る。



「…許せなかったんだ。君の膝を痛め付けた彼が」
「…ふぅん」
「何?言わせたくせに、随分素っ気ないね」


当然、普段の彼と同じ不遜でやや高慢な答えが返ってくると思った不二は、ちょっと拍子抜けする。
越前はぷいっと顔を背けると、真っ直ぐ前を見たまま不二の方を見ようとしない。



「越前?おーい、越前ー」


越前の前に手をかざしぶんぶん振って、気を引こうとする不二。
その仕草に、頭の片隅で(可愛いすぎるっ…)と思いながら、越前は顔を背けたまま。


「…何で不機嫌なの?」
「だって…そりゃ、嬉しいですよ。俺のために怒ってくれたってのは。でも、アンタが勝ちに執着した理由はそれだけじゃないし…」
「あれ、分かってた?」




「…試合中さ、手塚部長のこと考えてたでしょ」

いよいよ、不機嫌の本当の理由に触れるからか、越前の声のトーンが下がる。


「別に…手塚のことだけじゃないよ?青学のみんなのこと考えてた…勿論、君のこともね」


その時を思い出すように、目を伏せる不二。




それは、初めての感覚だった。
今まで、ただスリルを楽しむためにだけテニスをしていた自分が。
手塚の、あの勝利に食らいつく姿を思い出した瞬間、
青学の、大きく揺れる旗を見た瞬間、
必死に応援してくれる仲間の姿を見た瞬間、
今までにない熱いものが込み上げてきて。



勝たなければ。
青学の優勝のために、勝たなければと。
初めての、勝利への固執だった。





一方越前は、そんな不二の様子を横目で見つめながら、やっぱり睫毛長いなぁ…などという全く関係ないことを考えていた。


「ねぇ、越前…」
「はい?」
「もしかして、手塚に嫉妬した?」
「!別にっ…」
「くすっ、可愛いなぁ…越前は」

頭をくしゅくしゅと撫でながら、不二は楽しそうに笑った。


「子供扱いしないでください!」


きっ、と睨み付ける姿に、(そういうところが可愛いんだよ)と思うが、決して口には出さない。



「ごめんごめん。でも、結果的に勝てたのは君のお陰だよ。君がフレームに当てろって教えてくれたから…」
「……」
「ありがと、越前」


不二の、心からの感謝のこもった飛び切り綺麗な微笑みが、夕暮れ時の茜色の光に映し出される。
その美しさに、思わず越前は顔を真っ赤に染めた。


『次は、青春台ー、青春台ー』


社内アナウンスが響く。



「あ、もう降りなきゃだね」


周りのメンバーも、もぞもぞと起きだしてきた。
降車ボタンは、どうやら菊丸が押したようだ。


「あ」
「…越前?」

急に声を出した越前に、不二がその顔を覗き込むと。
悪戯を思いついた子供のよつや笑みを浮かべていた。



「…今日、青学の優勝を決めたのは誰でしたっけ?」
「誰って…君じゃないか」
「そうですよね。ってことは、それなりのご褒美が貰えるってことっスよね」
「…どういうことかな?」

だんだん声に楽しそうな響きがまざっていくのが何故か怖くて、不二の声が震える。



「不二先輩、何かくれないんですか?」
「んー、そうだな…今度デートしよっか?僕の奢りで」
「それもいいですけど。俺、『今度』まで待てないっス」
「…どういうことかな?」

越前はますます笑みを深め、まるで猫のようだ。
対して、不二の背中には冷たい汗が走る。


「鈍いわけじゃあるまいし、分かってるんでしょう?だから、今夜は家に泊まっていきませんか?」
「…あー、えっと…」
「泊まっていきますよね?」

不二が年下に弱いのは、弟でも、そして越前自身でも証明されている。
現に、こうして上目遣いで見つめると、断りにくそうに目が泳いでいる。


「…そういうのは、家族の承諾が必要なんじゃないのかな?」
「俺の家は大丈夫ですし、不二先輩は最近家に一人だって言ってたじゃないスか」
「…ぐっ……」

目元をほんのりと桃色にそめ、耐えきれなくなって目を背ける姿に、何も考えずこのまま襲ってしまいたい衝動に駆られるが、そこは何とか理性で抑えつける。
代わりに、


「ふふっ、頑張ったぶんのご褒美はたっぷりといただくから…楽しみにしといてね、不二セ・ン・パ・イ」


耳元で囁いてからふちをなぞるように舐めると、不二の身体はピクッと反応する。
丁度、バスはバス停についたようだ。





(にゃー!不二が、おチビにぃ〜!)
(越前が我々に見せ付けている確率…93%)
(ケッ、くっだらねぇ)
(ふぁあああああ…海堂ー、何かあったのかー?)
(手塚は…こんな部内の恋愛にも気を配ってたのか!?)
(ハハ…苦労するね、大石)




(神聖な大会の後でそんな不純な行為など…越前、学校周りを100周だっ!)


((((((!))))))




終われ\(^O^)/



インフルで暇過ぎて久々に25〜27巻読んでたら出来た
ちゃんと書くのは初のリョ不二です


手塚は心配で九州から幽体離脱してきました


※不二は、この後越前が美味しく頂きました

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