全ての愛を君に捧ぐ

□春の予感
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「うげぇ、謙也と同じクラスかいな…。不幸やわ〜」
「ちょお、随分失礼やな!」



新年度に相応しい桜吹雪と、玄関前にはりだされた新しいクラス名簿。
その三年二組の欄には、忍足謙也と白石蔵ノ介、二つの名前が輝いていた。


「せやけど、部活まで一緒なんやで?四六時中一緒やと飽きるわ」
「アホ、俺かて嫌やわ!はぁ〜…」
「…今、俺が財前やったらなぁ思たやろ?」
「うぅ…光ぅ〜!」


「…先輩、キモいっスわ」


突然、二人の後ろから相変わらずの気だるそうな声が響く。


「わぁ〜っ光!」
「!」
「ちょ…人目!人目を気にせい!」


突然、財前に抱きつく謙也。
財前はゆでダコのように真っ赤になって抵抗する。
そんな様子を、周りの生徒が好奇の視線で見つめている。


「や…ちょお…離してくださ…」
「光、なんで学年違うんやぁ…運命っちゅーんは残酷や」
「だから離せって……





離せ言うとるやろ!こんのアホンダラ!」


財前のアッパーが、華麗に謙也の顎に決まる。
そのまま、謙也は綺麗な弧を描いて吹っ飛んだ。
財前は呆れたように顔を背けると、白石に軽く頭を下げて校舎に入っていった。
相変わらずなその光景に、白石はもう渇いた笑いしか出ない。


「あーあ、謙也振られてしもたなぁ。…にしても光可愛え態度やん。ロックオン!」
「浮気かーっ、死なすど!」



――うわぁ、また喧しい奴らが…
振り向くと、やはりベタベタとくっつきあった小春とユウジが伸びてしまった謙也を見つめていた。


「…二人はまた同じクラスやな。おめでとう」
「おん。愛のパワーや!」
「…ユウジから小春はともかく、小春からユウジへの愛は疑いの余地があるな」
「何言うてんねん!三年連続なんて、運命以外に有り得へんやろ!」


その後、小春への愛を熱弁するユウジを余所に、小春はさっさと校舎に入ってしまい、ユウジは小春の名を絶叫しながら彼を追っていった。






――恋やなぁ…
どんなに邪険に扱われても一途に想い続ける謙也とユウジ。
今まで恋したことがない白石には、あそこまで真っ直ぐ一人の人を想い続けることができるのが純粋に凄いと思っていた。
でも、イマイチピンと来ぃひんな、というのが実際のところだ。


「おーい、なんや凄い一年が入学したらしいで!」
「なんでも、桜の木を引っこ抜いたらしいわ」
「マジか!?」



何だか、向こうの方が騒がしい。
桜の木を引っこ抜くって有り得へんやろ、と呆れながらも、面白いことに敏感な大阪人の血が騒ぐ。
恋だの何だのと感傷にふけるより、結局はみんなでがやがやする方が楽しい。

――と、その前に。


白石は未だ伸びている謙也の頭を叩いて起こしてやると、ずるずると引きずりながら、今度こそ人集りへ向かった。



「ワイ、遠山金太郎って言いますねん!よろしゅうよろしゅう!」


その先でであったのは、後に「みんなでがやがや」の台風の目となる人物だった。





春は始まりの季節。
皆が新たな門出を迎え、それを祝うように桜の花弁がひらひらと舞う。

白石はまだ知らない。
半年後、涼しくなっていく晩夏には、自身も謙也やユウジ同様に恋をし、ただ一人の人を一途に想っていることを。


そして。
その人を、その先一生愛し続けることを…




END




大阪の桜の咲く季節がわからん…

この春、新たな場所でスタートする皆さんへ。
相変わらず酷い文章ですが、想いはこめました!

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