全ての愛を君に捧ぐ

□first contact
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「そういえば」


先ほど気になったことを尋ねる。


「君、どうして僕の名前を…」
「?有名じゃないか、君は」


不思議そうに発せられた言葉に、不二は驚いた。
学内では、確かに『天才』と呼ばれている。
しかし、2年生でレギュラーになりたてだったこともあり、その名も精々都大会レベルだと思っていたのだ。
まさか王者立海の、しかも中核を担う全国区プレイヤーに知られているとは。

それに、


「それに、不二くんこそ俺の名前を知ってた。そうだろう?」
「だって、君は凄いから。君のテニスは、僕なんかとは全然レベルが違って…」


昨年の全国大会のビデオ。
それを見た不二は戦慄し愕然とした。
幸村のテニスは、強くて美しくて、そして恐ろしい。
見ただけで、興奮のあまり身震いが止まらなかった。


「そんなことないよ。それに…君は、まだ全ての実力を出し切ってないだろう?」
「!…なんで、」


悟られないようにしていたのに。
気付いているのは、洞察力に優れ一緒に居ることも多い手塚と、データ収集に余念がない乾と、顧問の竜崎先生だけだと思っていたのだ。


幸村が不二の試合を見る機会は少ない。
まさか、その数度で見破ってしまったというのか。
演技力、というより人を欺くのは割りと得意なのに。

しかし、続く言葉にもっと驚いた。


「羨ましいな」
「え?」
「君はテニスを楽しんでいるから。俺のテニスは、勝つためでしかない…」


寂しそうに呟く幸村。

でも、それは違う。
不二のテニスは、確かにスリルを楽しむためのテニス。
だが、それは純粋な楽しみではない。
不二にとって、スリルとは退屈を満たすための快感だった。
だが、並みの相手では満足することができなくて。
唯一満たしてくれるであろう手塚とは、一年前に不完全な手合わせをしたっきりだ。
要は、常に中途半端で欲求不満なのだ。


そこまで考えて、でも、と不二は目の前の幸村を凝視する。

あの戦慄のテニスをする幸村ならば。
至上のスリルを与えてくれるのではないか――


「幸村」
「ん?」
「君、僕と――」
「不二!」


言葉を遮るように、聞きなれた声が響く。
不二が振り向くと、そこには


「あ、英二」
「なにやってんの?もうすぐミーティングはじまるよ!」


クラブメートでクラスメートの英二が、少し離れた場所でピョンピョン跳ねている。
時計を確認すると、あと3分。


「あ、ごめん幸村。もう時間だから。じゃあね!」


不二は英二の方に走っていく。
幸村は突然の展開に唖然としていたが、不二が去ったあと、


「ああ。…またね」


誰に言うでもなく、小さく呟いた。





夏の爽やかな風が、その言葉を攫って言った。


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