全ての愛を君に捧ぐ
□夕陽の中の、君
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窓から夕陽の茜が射す、放課後の四天宝寺中学校テニス部部室。
下校時刻を過ぎて、その中には二つの影が残っていた。
そのうち、忙しなく動いているのは浪速のスピードスター・忍足謙也。現在着替
え中。
部活後のふたりっきりの特訓の後、面倒くさがりなパートナー(後輩)の分まで後片付けをさせられた可哀相な人である。
一方で謙也に片付けを押しつけた張本人である財前光は、パイプ椅子に座って涼しげな顔で携帯をいじっていた。
その視線は、ちらちらと謙也の顔を盗み見している。
「光」
「…なんすか」
突然呼び掛けられ、返事か一拍遅れる。
――流石にあれはまずかったか。
謙也をはじめ財前の先輩は彼の態度にかなり甘い(言っても無駄ともいう)が、本来ならば厳重注意のうえ、下手したら退部になるような不遜な態度を取り続けているのだ。
いくら優しい謙也でも、今度ばかりは堪忍袋の緒が切れた、ということか。
妙に冷静に納得しつつ、続く言葉を待つ。
「好きやで」
「……はぁ?…」
放たれた言葉は、この状況では思いもよらない言葉だった。
対応しきれず、間抜けな声が出てしまう。
この人は一体何を言ってるんだ。
そこ怒らないって…お前はマゾか。
いや待て…ここは、返事を返すべきなのか?
というよりも、自分たちはただの先輩後輩ではなかったのか?
これが愛の告白だったとしたら、随分とあっさりしすぎではないか?
いろいろ考えた末、財前の口から発せられたのは
「…知っとりますよ」
「せやな」
「俺もですから」
まさかの自分の発言に、財前光、機能停止。