捧
□君のくれた歌
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「トキヤくん、少しだけいいですか?」
探し求めていた相手を廊下で見つけた那月が、トキヤにそう言って手渡したものは何枚かの楽譜だった。
一応手にとるもいまいち把握しきれないでいる。
「これは?」
「僕の机に置いてあったんですけど、見覚えがなくて…」
自分の机にあったというのに見覚えがないなど、いささかおかしな話だ。
譜面には鉛筆でところどころ走り書きがされている。
それなのによく見ると消しゴムで消した跡が残っている。
何回も念入りに見直して修正をした証。
「だけどその楽譜を見ていたらトキヤくんのことが思い浮かんだんです」
渡された楽譜に初めて視線を落とす。
ゆっくりでいてそれでも不安定な旋律から始まる。
時間をおうごとにしっかりとしんをもって優しく光のように広がっていくメロディー。
この曲を聞けば本当に暗闇の中の人へと光を与えてくれそうな気がする。
「きっとさっちゃんがトキヤくんに向けて作ったんですよ」
メガネというガラスを一枚はさんで那月の目が優しく微笑む。
きっと、と言葉を濁しながらも語尾は断定的だ。