きみがため

□私の半分はお節介でできています。
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 危険な香りが絶えず香る池袋の街。
 その香りに誘われ上京した竜ヶ峰帝人少年は、体格の良い数名の男に囲まれていた。例えるなら飢えた狼の群れに放り出された一匹の羊。見るからに弱々しい雰囲気を醸し出す帝人は、狼たちにとっては格好の的だった。
 往来だというのに、通行人は見てみぬフリ。たまにチラリとこちらを見るが助けにはこない。
 帝人は非日常を求めてはいたが、このような巻き込まれ方は望んでいなかった。

「あ、あの……できれば帰りたいん、です、けど……」

 やっと出た言葉も男たちの眼光によってどんどん尻すぼみになっていく。

「僕ぅ、俺達の話聞いてた?」
「え、あの、」
「お金が足りないからね、心優しい坊やに貢献してもらいたんだよね。」
「そうそう、別に君をボコボコにしようってわけじゃないんだよ。」

 その言葉は暗に金を出さなければ実力行使、そういう力が自分たちにはあると語っている。

「でも、僕にもお金は……」

 帝人の顔の横、壁に一人の男の拳が突き出される。壁にヒビなどは入っていないが、自らに振りかかりそうになる恐怖に帝人は息をのんだ。

「何度も言わせんなよ……」

 先程とは違い低くなった男の声。
 このまま気絶できればどれだけ楽なのだろう。できればここに知り合いで、自分が作ったカラーギャングのメンバーである都市伝説の首なしライダーが通りかかってくれればよいのに。人より人間らしいデュラハンは困っている知り合いの少年がいたら助けに入るだろう。
 しかし人生とはそんなに甘いものではなく、優しさを装っていた男たちの声は怒号に変わり、唾と共に帝人に降り注ぐ。
 そんな時、帝人と男たちのすぐ横で彼らの声以外の音がした。

――ガコン

 彼らのすぐ横、手をついた男とは反対側の自販機から飲み物が落ちた音だ。

「なんだぁ? テメェ」

 コーラララとプリントされたペットボトルを開け、一口飲んでから視線を男たちに移した茶髪の少年。

「なにって、飲み物買っただけだけど。」

 いけしゃあしゃあと答えた少年。
 食ってかかるのは男たち。

「もしかして君、彼のお友達?」
「それとも何? 君も俺達に貢献してくれんの?」

 帝人を囲んでいた俺達は一度散らばると、帝人と少年を囲んだ。
 少年は怯えた帝人の顔を見て一言。

「初めて会った。」

 男たちの額に青筋が浮かぶ。
 しかし更に少年は言葉を続ける。

「あと、社会になんの貢献もしていないあんた等になんで俺が金をやんなきゃならないんだ? 金が欲しいなら働け。大勢でよって集って年下脅してるあんた等より金払えば商品が出てくる自販機の方がよっぽど働き者だ。」
「んっだとぉ!?」

 また一口コーラララを煽る少年を見ながら帝人は恍惚としていた。
 絶対的不利な状況であるのにも関わらず変わらない態度と強気な口調。男たちと違い虚勢のないそれに無謀さは見られない。
 一度も動かない表情。囲まれた時も激を飛ばされても、その少年の表情は変わらなかった。
 そして今も

「そろそろ退いて貰えるか? 帰りたいんだが。」

 少年の発言にキレた一人の男が拳を振るう。
 遅くもなく、速くもないそれを身を捻って避けた少年は、肩越しに何かを噴射した。少年の手にはコーラララ、そして逆の手、つまり肩越しに噴射したものはよくある痴漢や変質者撃退用のスプレー缶だった。
 目がぁ! とどこぞの映画の悪役のようなセリフをはきながら少年の後ろで鉄パイプを持っていた男が得物を落とし、のたうちまわる。

「テメェっ!」

 器用に片手にコーラララとスプレー缶を持った少年は空いた手で鉄パイプを持ち、第二撃の男の拳をまるで野球のスイングのように打った。

「何しやがる!」
「先に手を出したのはそっちだろう。正当防衛だ」

 残る男は5人。
 少年は鉄パイプを後ろに投げ捨てる。

「いいのか? 得物がなくなるぜ?」
「あんなもん持ってたら過剰防衛になるからな。それにあんたたちには、これで充分だ」

 そういって片手にコーラララと共に持ったスプレー缶を掲げる。

「なめてんじゃねぇぞガキィっ!!」

 五人一斉に仕掛けられた攻撃に今まで成り行きを見守っていた帝人も声を出す。
 しかしそれでも少年は表情を崩さない。
 どんと帝人の横っ腹に軽い衝撃が走った。いつもならこんなことでは動じないのだが、今までの恐怖感と呆気にとられていたこともあってか帝人の身体は横へ倒れていく。
 倒れていく間、帝人の耳に届いた何か擦れるような反復するような音。
 受け身はとれなかったが、幸い怪我もなく顔をあげると、ちょうど少年が身を低くして男と男の間からすり抜けるところだった。体が細いから成せる技だ。
 帝人も横へ飛ばされたお陰で攻撃を受けずにすんだ。
 その時、初めて少年の顔が動いた。といっても口元が釣り上がっただけなのだが。
 風船が割れたような破裂音。
 振り向いた男たちの顔面に降り注ぐのは茶色の液体。少年の手にはスプレー缶しかなかった。

「今日の池袋の天気は晴れのち曇りところにより雨、ってな。」

 先程帝人が聞いた反復音は少年がコーラララを振っていた音だったのだ。固く閉じられた蓋は容器を密閉し、振られた炭酸水は容器を膨張させ、破裂した。
 少年はすぐさま帝人の手をとり立ち上がらせる。
 逆上したのは男たち。

「テメェっ!」
「あ、間違えたな。ところにより雷雨、が正解だ。」

 帝人の目の前で男たちがドミノ倒しのように倒れていく。その光景にある種のデジャビュ感じた。そう臨也と初めて会った時と同じ。平和島静雄によって投げられたゴミ箱によって倒れていく光景と。
 倒れた男たちの上には軽くはないであろうゴミ箱。そして聞こえてくる破壊音と地を這う獣のような声。
 少年に腕を引かれた帝人は池袋の喧騒に紛れていった。

+++

田中太郎【――ってことがあったんですよ】
セットン【へー、今時いるんですね、そんな子】
甘楽【じゃあその子は、太郎さんにとっての正義のヒーローですね!】
甘楽【それでその後どうなったんです?】
田中太郎【いや、いつの間にか人混みに紛れていなくなってて……】
田中太郎【お礼、言いたかったんですけどね】
セットン【池袋は奇妙な街ですからね、また会えますよ】
田中太郎【そうかもしれませんね】

―青色一号さんが入室しました

田中太郎【こんばんわー】
田中太郎【あれ、初めての方ですね】
セットン【ばんわー】
青色一号【ちわー、初めましてです】
甘楽【あー!青色一号さん、やっと来てくれたんですね!もう私、待ちくたびれちゃいましたよぅ!】
田中太郎【ってことは青色一号さんは甘楽さんの誘いで来たってことですか?】
青色一号【そーですね、半年程前からウザイくらいしつこくメールが来てまして】
田中太郎【それを無視できるって、相当の強者ですね】
青色一号【いえいえ、メールの返事さえしてないのに、半年間も送ってきた甘楽さんの方がそうとう強者かと】
セットン【確かにww】
甘楽【だって青色一号さん素っ気ないんですよー?】
甘楽【メールの返事だっていっつも一行だけで】
青色一号【携帯苦手なんですよ】
田中太郎【いくつですかw青色一号さん】
青色一号【ピチピチの15歳ですが何か】
セットン【記号がないところから怒りを感じますね】
甘楽【そういえば高校生になるんですよね!おめでとうございます☆青色一号さんもブクロ住みだから太郎さんやバキュラさんと同じ学校かもしれませんね!】
青色一号【なに勝手に人の個人情報流出してるんですか、潰しますよ】
甘楽【イヤン、青色一号さんのセ・ク・ハ・ラ☆きゃっ】
青色一号【太郎さんもブクロ住みですかーもしかしたら会ってるかもですね】
甘楽【無視ですか!?】
田中太郎【かもですね】
青色一号【といっても、駅とかサンシャインとかの方にはあんま行かないんですけど】
田中太郎【そうなんですか?】
青色一号【人混み苦手なもんでして】
青色一号【それにあっちの方は危険じゃないですか、色々と】
セットン【まぁ、安全とは言えませんね】
青色一号【でしょう?ログ読みましたけど現に太郎さんも巻き込まれたっぽいじゃないですか】

内緒モード 甘楽【というか、太郎さんが言ってる少年って優希君のことでしょ?】
内緒モード 青色一号【いきなりですか】
内緒モード 青色一号【まぁ、間違ってはいませんが】
内緒モード 甘楽【ホント、ほっとけばよかったのに。】
内緒モード 青色一号【あの場にいたのはほぼ偶然ですよ】
内緒モード 青色一号【まぁ、理由付けしろっていうなら】
内緒モード 青色一号【自分たちのリーダーをボコボコにされるわけにはいかないでしょう?】



私の半分はお節介でできています。
(まぁ、あそこでシズちゃんと喧嘩してた俺に感謝してよ?)
(あんた等も飽きないですね……)


jachin 「まるで保護者な貴方に七題」より

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