憧憬

□RING
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あっという間にあっさり始まった2010年
今回の年越しも部屋で独りワイン片手に過ごしてる
私の横には・・・和也の代わりに(代わりなんて無理だけど)
あいつの飼い犬の蘭がうとうとしてる



テレビの中の和也の「あけましておめでとー」って声にピクッとして顔をあげる蘭
回りを見渡してもご主人様の姿がないのでまた目を閉じた

 「あんたのご主人様はあそこだよ」

テレビを指さす私の言葉にはノーリアクション

 「まぁいいけどね」

アイドルスマイルしてる和也におめでとうって言ってみる

 「返事しなさいよね、まったく」

返事をするわけもない【俺、亀梨】に向かって文句言ってみた



もう何年も一緒に年越しできてないなぁ
この仕事をしてる限り
カウントダウンコンサートがある限り
一緒に大晦日を過ごすなんて無理なんだよね
そんなことわかってはいるけど・・・


暖房の効いている部屋なのに、
隣に和也がいないっていうだけでなんか寒くて
香りだけでも感じたくて、和也の上着を羽織ってみる

 「あけましておめでとう、和也」

和也の上着を羽織った自分を抱きしめソファーに横たわった
和也の甘い香りが鼻をくすぐる

賑やかな祭りとうらはらに襲ってくる眠気

 「年男・・・かぁ」

袴姿の和也を横目に堕ちていく意識




正月もあっという間に終わり私は仕事の日々
和也は撮影で海外だから、年末からもう10日も帰ってない
今までこんなに長く留守にすることなんてなかったから寂しい時間が長すぎて麻痺してくる

 「いつ帰ってくるんだっけ?」

でも具体的に日にちがわかっちゃうと寂しさが我慢できなくなっちゃうからわざとぼかしておく


蘭との2人(?)暮らしも違和感なくなったある日
夜勤明けでやっと帰ったら久々にあの曲が携帯から流れる
 ♪たとえば〜もしこの夜・・・♪

 「えっ?和也?」

和也からの着信は大好きなソロ曲にしてある
ベタ過ぎるよって和也に苦笑いされたけど
久々の着メロに慌てちゃって携帯を落っことしそうになっちゃった

 「和也?ひさしぶ・・・」

 『あのさっ天気いいから散歩しよーよ。いつものとこで待ってる。じゃぁね』

え?帰国したの?って聴いた時には電話は切られてた
まったく勝手なんだから・・・
これだからB型はって言いながら身体は出かける準備をしてる

疲れてるはずなのに
振り回されてるはずなのに
なんかウキウキしちゃってる私
急いで覗いた鏡にはおさえきれない笑顔の私がいた

 「蘭、行くよっ」




いつもの待ち合わせのドッグカフェ
急いできたのを悟られないように乱れた息を整える
入る前に硝子に姿を映して最終チェック

 「よしっ、かわいいぞ」

自分に言い聞かせてカフェに入ると

 『こっち、こっちだよ〜』

聞き慣れた声に振り向くと私の大好きな幼げに笑う和也が手を振ってた

 「和也、おかえ・・・」

 『蘭〜会いたかったよぉ』

蘭を抱き上げて頬ずりしてる和也
またも私の声は掻き消された
まぁそんなもんよね
【大好きな蘭ちゃん】には敵いませんから
文句のひとつでも言ってやろうと思ったのにタイミングが狂っちゃって、言葉を飲み込んだ


少しすねてる私に気付いたのか

 『ただいま』

まっすぐに向かう綺麗な瞳に見つめられ

 「おっ・・・おかえりなさい」

そう言うのがやっとだった
そんな瞳に見つめられたら怒れなくなっちゃうじゃない


 『じゃ出よっか』

 「えっ?お茶しないの?」

 『天気いーからさ、散歩しよーよ』

戸惑ってる私に

 『いや?』

 「ううん、いいけど・・・」

蘭を肩に乗せ、店を出る和也

 『ほらっ行くよっ』




 『ちょっ寒みーけどちょー気持ちよくない?』

 「うん」

少しだけ距離をとりながら、でも並んで歩く2人

 『ほんとはさ、まだまだ撮影残ってたんだけど急に撮休になっちゃったんだよね』

 「そうなんだ」

 『逢いたくなって帰ってきちゃった』

誰に?って聴きたかったけどその言葉が出なかった
なんか聴くのが怖かった

だって今日の和也はなんかちょっと今までと違ってて・・・
私をほとんど見ない
いつも私が照れちゃうくらい
心まで見透かすようにじっと見つめるのに

和也の変化にちょっと敏感になってる?私



 『ねー、なに売ってんだろ』

蘭とじゃれながら少し先を歩く和也が蘭を抱いて歩み寄る

路上でアクセサリーを売ってるのが目に入る
黒いビロード地の上に広げられたアクセサリーの前にちっちゃくしゃがみ込む和也

 『これ、可愛くね?』

短い人差し指に引っ掛けたリングが陽射しを浴びてキラキラしてる

 「うん、可愛いいね」

 『お土産買ってこれなかったからさー、コレ買ってあげるよ』

 「いいの?ありがとう」

小さなハートが2つ重なってるデザインのリング
すごく嬉しくて握りしめる



再び歩き始める私たち

 『ごめんな』

 「んっ、何が?」

 『向こう行ってるあいだ、全然連絡出来なかっただろ』

 「仕方ないよ、仕事だもん」

ホントはメールくらいできるだろって思ってたけど、顔見ちゃったらそんか事どうでもよくなっちゃった

 『忙しくてさっ』

 「だからわかってるって」


そう言ったあと無言になる和也
そんな空気がだんだん息苦しくなって

 「寒くなってきたね」

でも言葉が続かない
冷たくなった指先を擦り合わせて暖めようとする

 『貸してみー』

私の右手を掴み自分のポケットへと誘う

 「暖か〜い」

 『だろっ?』

得意げに微笑む和也


ポケットの中で和也の指がさっき買った私の薬指のリングに触れる

 『ん?あれ?』

 「どした?」

 『違くね?』

 「何が?」

絡めたままの2人の手が外気に触れる

 『こっちじゃないだろ』

そう言ってリングを抜き取って私の左手を掴み薬指に嵌め直す

 『うん、やっぱこっちだろ』

和也が嵌めてくれたリングが暖かくて・・・
冷たい手がそこから暖まってく気がした


何て言おうか言葉をさがしてる私に

 『今度はちゃんとしたやつ・・・買おーな』

いつもの瞳が私の心をとらえる

私の髪をクシャクシャに撫でながら並んで歩き始める

今度は離れずに歩いた
そしてこれからも離れずに・・・









翌日朝イチでまた海外に戻る和也を見送った帰り道
やっと気付いた中丸君からの留守電

【もしもし、中丸です。
カメそっち帰ってないかな?
友達のウエディングパーティー出てたら
『俺も決めなきゃな』
って言っていなくなっちゃったんだよね。
パスポートないからもしかしてって思って・・・。
帰ってんなら撮影あるから早く戻れって言ってやって・・・】

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