短編
□君の温もり
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―遡ること数時間前。
昼休み。
名無しさんは友人たちと昼食をとるために屋上へ向かっていた。
「今日のお弁当は自信作なんだよ♪」
「お母さんの自信作、でしょ?」
「日本語はちゃんとつかわなきゃね。」
そんなやり取りをしながら廊下を歩いていると友人の1人が前方からやってきた人物に気付き声を潜めた。
「ねぇ、あれって風紀委員の…。」
その声に促されて友人の視線を追うとその人物、風紀委員の副委員長と目があってしまった。
(うっ、目が…。
これっていきなり目を反らしたら失礼だよね?
どうしよう、タイミングが…って、あれ…?)
『その怪我どうしたんですか?』
話しかけられるとは思っていなかった草壁は思わず固まってしまった。
「ちょ、いきなり何話しかけてるの!」
『いや、目があっちゃったし…』
「だったらそこは会釈でしょ?」
『だって、気になったんだもん。
最近この辺で不良グループが暴れてるって聞いたからさ…。』
そこで、固まっていた草壁がようやく口を開いた。
「これは、その不良グループにやられた訳ではない。」
『じゃあ何で…』
「こら、名無しさん!!」
『いーじゃん、別に。』
「…なかなか不良グループの尻尾が掴めずに機嫌の悪かった委員長の眠りを妨げたから、と。」
「……なんというか。」
「「「『お気の毒に。』」」」
「あ、あぁ。
君たちも気を付けろよ。」
「不良グループにですか?」
「いや。委員長に、だ。
委員長は最近、忙しくてあまり寝ていないそうなんだ。」
『寝不足で機嫌が悪いんだ…。』
「はぁーい。」
「ご忠告ありがとうございます。」
こうしてまた、名無しさんたちは屋上へ向けて歩き出した。
『ほら、聞いておいてよかったでしょ?』
「それは結果論。」
「それに、どっちみち応接室に近づかないし。」
「確かに。」
彼女たちに背を向けて歩いていた草壁はふとあることを思い出し足を止めた。
(そういえば、言い忘れたな。
今、委員長は屋上にいると。)