旧拍手

□〜4月5日
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「寒い…」

『だねぇ』

「うわ!?いつの間に!?」




トランクスの独り言に思わずそう返す。
トランクスは私が後ろにいたことに気付いてはいなかったようで飛び跳ねていた。
仮にもサイヤ人が…。




『トランクス、もうちょっとそっちにつめて』

「あ、はい、すみません。…じゃなくて!どうして貴方がここにいるんですか?」

『え?だって私の家まだ壊れたままだし、めんどくさいから今日からここに居候しようかと思って』

「聞いてませんよ!そんなの!」

『あれ?ブルマさんには言ったんだけどな』

「母さん…」




はぁ、とため息をついてトランクスは右にずれる。
うん、やっぱり冬は炬燵だよね!これないと寒くて死んじゃう!

私は今買ってきた蜜柑をテーブルの上に乗せると美味しそうなものを二つ選ぶ。




『はい、美味しいよ』

「ありがとうございます。…ところで、本当にここで暮らすんですか?」

『あれ、本気にした?』

「えっ、嘘なんですか?」

『家が壊れたままなのは本当だよ。居候の話は嘘』




本気にしたんだ、とからかうように笑うとトランクスは嘘はいけませんよ嘘は!とちょっとだけ怒った。
全然怖くないや。

私は蜜柑の皮を剥きながら、でも…と続ける。




『居候、したいなぁ。この時期は本当に寒くて…。野宿は出来ないよ』

「野宿!?野宿してたんですか!?」

『してたよ〜、行く当てないし。おかげでなんだか強くなった気がする』

「今すぐ母さんと話しましょう!居候しましょう、ここに!」

『…ありゃ、また信じた?』

「へ?」




パクッと蜜柑を食べる。
うん、甘くてとっても美味しい。ついでにトランクスの惚けた顔も面白い。




『ホイポイカプセルのお家貰ったから大丈夫だよ、この前』

「この前!?じゃあ、今までは」

『もちろん、野宿』

「本当だったんですね、野宿の話」




トランクスは女の子が野宿なんて、とぼやいている。私だって嫌だったよ。でも、すぐにカプセルコーポレーションを頼るのもなんかシャクじゃない?

そんなこと言ったらトランクスは頼ってくださいと言うんだろうけど。




『いやー、トランクスって直ぐに信じちゃうんだねぇ。可愛い可愛い』

「からかわないでください。第一、貴方の嘘は嘘に聞こえないんですよ」

『そりゃあ、ねぇ。半分は本当のこと言ってるもん』

「…た、確かに。そういえば貴方は前からそんな感じでしたね」




も一つ蜜柑をパクリ。
トランクスはやっと蜜柑を剥き始めた。遅い。





『あー、でも本当に寒いや。あ、まだマフラーしたままだった』

「やっぱり、居候しませんか?俺の家に」

『んー?いいよ、大丈夫』

「でも、一人なんですよね?」

『そうだよー。一人は慣れてるし、気にしないで』




マフラーとついでにコートも脱いで畳む。自分の隣に置いて、また蜜柑を食べる。

トランクスは綺麗に剥いた蜜柑を食べずにテーブルの上に置いた。うわ、筋まで取ってる。すごい。




「…俺が、不甲斐無いからですか?」

『何いってんの?トランクスほど頼れる人はいないよ。君のおかげで平和になったんだからさ』

「でも、俺がもっと早く人造人間を倒していれば…貴方の」

『それ』

「え、」

『それが嫌なの』




残りの蜜柑を全部口に入れる。口いっぱいに蜜柑の味が広がった。

全く、ちっとも私の気持ちに気付いてないんだから。




『私がいると、自分責めるじゃない。俺がもっと早く…とか、強ければ…とか。もう聞き飽きたよ』

「でも」

『あー!寒い寒い!君が私をちゃんと見てくれたら、ここに居候させて欲しいんだけどなー』

「…俺は、ちゃんと貴方を見ています」

『本当に?本当に私を見てる?どう見てるの。一人の人間として見てるの?それとも』




あー、もう。こんなこと言うために来たんじゃないのに。
ただ、トランクスと会ってちょっとだけ話したかっただけなのに。




『人造人間に家族を奪われた可哀想な被害者って見てる?』

「っ…そんなこと」

『ないって言い切れるのかな?私を君と対等な人間として見ているならば、俺のせいでなんて言葉は出ないよね』




トランクスは黙ってしまった。もしかしたら思い当たる節があったのかもしれない。

ねぇ、早く私を見てよ。
被害者としてではなく、ただの人間として見てよ。
…できれば、女として見て欲しいんだから。

早く、その罪悪感を忘れてよ。




『あー……寒い寒い。凍えそうだ』

「俺は、ちゃんと貴方を見ています!貴方に一人前の男として認めて欲しいんです」

『なにを』

「貴方はいつも俺をからかって、本当の気持ちを言ってくれない。貴方こそ、俺を対等な人間として見てないでしょう!」

『うわ、言うねぇ。私の半分嘘半分本当の話は結構近い人にしかしないんだけど』

「へ?」

『だって、嘘言ってもからかっても冗談で済むのは近い人だけでしょ。私をよく知ってる人だけ』

「じ、じゃあ」

『君はとっくに私のテリトリーに入ってきてるの。それもかなり近くまで』




天然って怖いねぇと笑いながら言う。
君って会った時から警戒心を出させないというか、安心させるオーラを出してたからさ。
この人となら、なんて思っちゃったわけ。




「え、えっ!?」

『私はもう君を認めているよ。トランクスのせいで、なんて思ってない。トランクスのおかげで、私は今生きているし…ちゃんと幸せだよ』

「本当、ですか…?」

『……私にここまで言わせておいて嘘だと疑うの?』




こんなに本音を言うのって珍しいんだからね。
私はトランクスが剥いた蜜柑を奪って食べる。これも甘くて美味しい。

トランクスは動揺しているのか小さく、認めている、近くまでいる、幸せ…なんて呟いている。
私はそれを横目で見ながら静かに蜜柑を食べる。

やっぱりトランクスっていいなぁ。

こんな優男なのに、強くて、脱ぐと筋肉すごくて。あの時、私を守ってくれて。




『私は出会った時からトランクスのこと、男として見てたよ』

「えっ」

『なんでもなーい』




あー、頬が熱い。
私の熱で外の雪、溶けちゃうかも。





長くなるので強制終了!



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