旧拍手

□〜10月17日
1ページ/1ページ





「はいはーい、僕だよ僕!ね、扉開けて〜」

『僕僕詐欺か…。僕、なんて名前の友人など私にはいない』

「うっ、孫悟天だってば!もー、わかってるんでしょ、開けてよ」

『嫌だね。孫悟天なら尚更嫌だね』

「何で!?僕、君になにかした?」

『してない。けどされそうだから開けない』

「酷いなぁ。いいからお月見しようよ!それか空の散歩」

『しない。新しい彼女とうまくいかなかったんでしょ。一人でお月見しな』

「なんで知ってるの!?そうなんだよ、ヘレナちゃんったら僕が浮気してるって」

『悟天ならやりかねない』

「えー!でもさ、君にも関係ある話なんだよね」




ふふふっと悟天が不気味に笑う。
うるさいので扉を叩いてやった。
扉の前にいるだろう悟天が怖いなぁと呟いたのを私は聞き逃さなかったよ。




「だってさぁ、ヘレナちゃんが言うには僕と君が付き合ってるって」

『…そう、またそれ』

「面白いよね。僕と付き合った子はいつもそういうんだ」

『それはそうだよ。だって悟天、彼女いるのに私のところによく来るじゃない』




おかしいよ、そんなの。
そう続けると悟天はそんなことないよと笑った。

そして、こつんと扉に頭をつけた。




「おかしくないよ。だって僕は君のこと…」

『…?なに?』

「いいからお月見しよう!」




バキッと物凄い音がして扉から手が生えてきた。そしてそのまま部屋の鍵を開ける。




『あーー!また壊した…!何枚目だよもう!』

「何枚目だろうね〜。あ、開いた」

『開けたの間違いでしょ。悟天負担ね』

「はは、またお母さんに怒られちゃうな」

『だったらやらなきゃいいでしょ。ほら、手を抜いて』

「はーい」




スッと扉から生えていた手が奥に引っ込む。
私はため息をつきながら扉を開けた。




『で?どう慰めて欲しいの?お月見ってことはお団子作れってこと?』

「正解!ささ、僕のために早く作って!」

『はいはい。リビングで待ってて、すぐ用意するから』




なんとなく悟天が来る気配がしていた私はすでに団子を作り終えていた。
ため息をつきながら階段を降りるとその後ろを悟天がついてくる。

彼はリビングのソファーに我が物顔で座り私はキッチンで団子の用意。




「ねー、君ってさぁ…いつから一人暮らしなんだっけ?」

『んー?一年くらい前かな。それがどうしたの?』

「僕以外の男とか、入れたことある?」

『悟天以外?どうだったかな…。ないとは言い切れない、かも』

「どういう関係?」

『別にただの友人…ってなに、今日はやけに質問が多いね』

「んー。そうかな、ちょっと気になっただけだよ」

『ふーん。はい、団子の用意出来たから庭に行こう?』

「うん!」




ヒョイっとソファーから立ち上がった悟天が庭へ続く窓を開けてくれる。
それにお礼を言ってから二人で窓枠に座った。




「いただきまーす!」

『どうぞ。急いで食べて喉に詰まらせないでね』

「大丈夫大丈夫」




幸せそうな顔で悟天は団子を頬張る。私の三倍の速度で。

私はそれに呆れを通り越して感心しながら団子を一つ口へ放り投げた。
うん、美味しい。




「食べ終わったらさ、ロマンチックに空の散歩しようよ」

『私は飛べないんだってば。悟天一人で散歩しなよ』

「それじゃつまんないでしょ!わかんないかなぁ、もう」




こうすればいいんだよ、と悟天は団子をもう一つ食べようとした私の右手を掴んだ。
かと思うと立ち上がり私を抱き上げる。




「君と一緒じゃないと意味ないんだってば」

『ご、てん、降ろして』

「やだ」




フワリと悟天が浮く。そのまま上昇していった。

悟天は私の願いなど聞く気はさらさらないようであっという間に自分の家が豆粒ほど小さくなった。

高い。かなり高い。




『ちょ、と…ねぇ、高すぎない?』

「そうかな。このくらい高くないと吊り橋効果は得られないんじゃない?」




え、と悟天を見上げると彼は星空をバックに優しく笑っていた。
その顔に何にも言えなくなっちゃって、私はまた口を閉ざす。




「僕の本命は一人だけ。君はもう分かってるんじゃない?」









全部全部君のせい









いろんな女の子と付き合ったのも、

君の前でその話をするのも、

君が男と付き合っても長く続かないのも、

全部全部君のせい。

君が、僕の心を支配するせい。




悟天は君に嫉妬して欲しかったんだよ、と続けて星空の散歩を再開した






(わかってくれた?)
(う、ん…でも、なんか、意外で…)
(君そういうの鈍そうだもんね。でも知ってるんだ)
(な、何を?)
(君が僕と一緒に写ってる写真を見て幸せそうな顔してること)
(っ!)
(はい、言い訳しない。ほらほら、綺麗なお月様だよ〜)





悟天は策略家な気がしてならない。





[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ