旧拍手
□〜6月26日
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「行くぞ、ほら」
トランクスに手を引かれて歩く。
行くぞって言われても…こんな高そうな店なんて入ったことない!
ゴールデンウイーク。
特に予定もなく家でダラダラと本を読みながら過ごしていると窓からトランクスが現れた。
『ぎゃあっ!何だ、何で窓からやってきた!』
「なんだって何だ…って、うわぁっ!お前、服着ろよ!」
『いきなり入ってくるからだよ、もうっ!』
私は普段家の中では下着で過ごす女である。
そんな私の部屋にアポなしにくるあんたが悪いんだよあんたが。
ブツブツ文句を言いながら適当にクローゼットから服を出して着る。
タイミングを見計らったようにトランクスが窓を開けて靴を脱いで入ってきた。
「ったく、なんで下着姿で…」
『だって服ってなんか窮屈じゃない?自由になりたい年頃なの』
「なんだそれ…」
『で?どうしたの、急に乙女の部屋に入ってきて乙女の下着を見た変態さん』
「わ、悪かったよ…。まぁ、それは置いといて出掛けようぜ」
そして今に至る、と。
高そうな服屋に無理やり入れられて、有無を言わせず店員さんに着せ替え人形にされている私。
なんなの?私の意思は無視なの?
トランクスはニコニコと楽しそうに私を見ている。殴ろうかな。
「やっぱお前はシンプルな服が似合ってるな。あと青色系とか」
『…何がしたいのよ、あんたは』
「気に入った服があったら買ってやるからさ。あ、俺は今着てる青色のスカートが似合ってると思うな」
ニコニコ、ニコニコ。
全然反省の色が見えない。
はぁ…と深いため息をついて私は内心毒を吐く。
トランクスったら…ゴールデンウイークを一緒に過ごす女の子なんて沢山いるくせに何で私なんかのところへ来るのよ。
しかも人の私服に文句つけて高い服屋に連れてきて…。
私のバイト代じゃあ、到底払えない品物ばっかり。
自分の金持ち具合を自慢でもしたいのか馬鹿野郎。
「お前今かなり酷いこと考えてるだろ…。顔が般若みたいだぜ」
『あんたの方が酷い。女の子に向かって般若って…私じゃなかったら泣いてるわよ、あんたみたいなイケメンに言われたらさ』
「…お前さ、俺のことカッコいいって思ってたんだな」
ニヤリ、と悪人顏で笑われて私はふんっと鼻を鳴らした。
思ってるよ、顔はカッコいいって。
『はぁ…私もう帰っていい?このゴールデンウイークは本読んでダラダラする予定なんだから』
「ダメ。ってか、お前予定なさ過ぎかよ!俺がいろいろ連れてってやるからさ、そんな悲しい顔すんなよ」
『してないよ。もうトランクスの目が心配だよ。ちゃんと人の表情読み取ろうよ』
「はいはい。あ、店員さん、アレとアレも試着させて」
聞いてないよこの人…。
私はもう一度深いため息をついてもうされるがままになることに決めた。
『ところでさ…なんで途中から店員さんが生暖かい目で私のこと見てたの?』
両手に服を持ってくれているトランクスに向けて質問してみた。
トランクスは思い出し笑いをしながら話をし始める。
「お前があまりにも騒ぐから店員さんに、俺の彼女恥ずかしがり屋で憎まれ口を言わずにはいられないんだ、あれは照れ隠しさって言っただけだよ」
『恥ずかしがり屋…!?って、それより前に気になるワードが…!』
「俺の彼女?」
『それ!なによ、それ!私別にトランクスの彼女じゃないんだけど!?』
「いいだろ、別に。そうでも言わないと俺があそこにいてお前に服を買ってやってるの可笑しいだろ」
『だから入りたくないって言ったじゃん…。わざわざ私なんかのために時間使うことないんだよモテ男さん』
私がそう言うとトランクスは深くため息をついてから頭をガシガシと掻いた。
「お前のために時間使ったっていいだろ。俺は結構楽しかったけど」
『……あ、そ』
返事が遅れたのは、きっと疲れてしまったせいだと思う。
友達以上恋人未満
(はぁ…。お礼に何かご馳走するよ。あ、高い店は無理だからね)
(それなら俺、お前の手料理食べたい。お前って結構料理上手いから食べたくなるんだよ)
(そりゃどうも。じゃあ、このまま家寄ってってよ)
(あぁ。あ、その服着て料理したっていいんだぜ?)
(そういうの面倒くさいからやめて)
え、付き合ってませんよ?
雪