銀魂/土方十四郎




最近めっきり寒くなった。

襖を開けると冷えた空気が容赦なくまとわり付いてきて、寒さに肩を震わす。

なんだって静かな夜だな。

時折吹く風が木々を撫でていくが揺らすまでは至らない。

かさり、と乾いた音を立てて落ちていく葉は一所に留まり山を作っていた。

結構積もってんな。明日誰かに掃除させよう。


小さく伸びをしてから部屋に戻ろうとした所で気が付いた。

気分転換にタバコ、ふかそうと思って外に出たんだった。でも寒いしな…あったかい部屋に入ってからじゃまた出るのも億劫だ。

まぁいいか。いい加減仕事片付けねえとな。

机の上に重なっている書類に目をやって、溜め息一つ。

まぁ仕方ねえか。今の内にやっておかねえと、もっと忙しくなるのは目に見えている。


ぱたん、と音を立てて閉まった襖が、外気を遮断してくれたお陰で部屋の中は暖かい。

とは言っても完璧に暖を取っているわけではないから指先に冷気がまとわり付く。

寒い季節は気が滅入る。

早く春にならねえかな、と思いながらも筆を走らせていると、控え目にノックがされた。


「誰だ」

「私です」


襖の向こうから聞こえる声は、やたらと耳に馴染む。

顔なんて見なくても分かる。

入れ、と一言返すと、開かれた隙間からよく知った顔が覗いた。


「まだお仕事中?」

「ああ、最近手え付けてなかったから、片付けてる所だ」

「ごめん、邪魔しちゃったね」


言いながらも悪怯れもなく、どっちかと言うと机に向かっている俺を物珍しそうに見ている。

とりあえず寒いから閉めてくれないか。指が冷えて動かなくなりそうだ。


「まだまだかかりそう?」


お邪魔します、と一応断りを入れてから部屋に上がってきたこいつは、俺の隣に腰を下ろした。

普段は束ねている髪も解かれ、部屋着を纏っている姿は仕事中とは違って幼く見える。


「これだけはやっちまいたいから、すぐには終わらねえだろうな」


ちらりと目線をやった先には、先程から変わらない高さに重なった書類。

目標はその半分だ。つまりは終わる時間の目処が立たない。


「そっか。久しぶりにトシと一緒に寝ようかなって思ったんだけど、諦めた方が良いね」


来る前から予想はしていたのだろう、あっさりと立ち上がって出て行こうとしている。

思わずその手を掴んで引き寄せたのは、反射的にした事で

抱き締めた身体は少し冷えていて、こいつは寒さを我慢していたのだと気付く。


「ごめんな」

「何が?」

「寒かっただろ」

「ううん、大丈夫だよ」

「嘘吐くなよ、身体冷えてんぞ」

「…トシの部屋、寒い」

「…わりぃ」


おそらくそれは、さっき襖を開けていたからだろう。

外気を取り込んで下がった室温はまだ上昇しきっていない。


「しばらくしたら暖まるから、それまで我慢しとけ」

「ん」


もぞり、と腕の中で身じろぎすると今度は、ふあ、と小さな欠伸。


「眠いのか?」

「少し。今日は起きたのが早かったからね」


へらっと笑ってみせるこいつは、トロンとした目を擦りながらまた一つ、欠伸を零した。


「仕事はすぐに終わらせるから、先に寝てろ」

「分かった。…ねぇトシ、その上着、貸して?」

「ん、やっぱりまだ寒いか?」


言いながらほら、と背もたれに掛けてあったジャケットを手渡す。


「ううん、これをね、こうやって…」


ぎゅっ‥と、抱き締めたそれに顔を埋めて。

ふにゃりと笑うこいつは、なんだって幸せそうな顔。


「あー…なんつーか…」


やべ、にやけそうだ。平静を装ってるけど多分俺、今すげえ口元に力入ってる。


「俺も寝る」


その場所は、俺の定位置だ。

上着にまで嫉妬するなんてな…どうやら俺は、予想以上にこいつにはまっているらしい。

今更ながら、それを再認識した。


「あれ、トシ。仕事は?」

「いンだよ、今日はもう終いだ」


特別な理由なんて無い、ただお前と一緒に居たいだけ。

その為なら多少仕事を後回しにしても許されるだろう。と言うか、期限内に終わらせれば誰も文句は無いはずだ。

腕の中で静かな寝息を立てるこいつを見たら、なんだかとても安心した気分になって

広がる暖かさを感じながら、俺もゆっくり瞳を閉じた。





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Blues No.14 銀魂/土方十四郎

いちねんぶりに 拍手お礼ゆめを かえてみたよ!

今回のお礼ゆめ、3作ともテーマは「再認識」

季節が残念なくらい違いますが、おそらく次にこの季節になるまで変わらないと思いますw

お礼なのに長ったらしくてすみません。コンパクトに出来ません。

拍手ありがとうございました、大好きです!

2009,04,24 さえ子

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VOCALOID/KAITO


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