LONG STORY
□断章
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╾╾前略╾╾
私が彼女と初めて会ったのは、グレンに会いにバスカヴィル家の屋敷に行ったときだった。
偶然通りがかりに塔が立っていたから戯れに見上げて見たら、恐らく二階であろう部屋の窓から随分小柄な人影が見えたものだから、何の気なしに会いに行ってみたのだった。
扉を開けると、なんと幼い女の子が一人でつまらなさそうに本を読んでいたのだから、驚いた。
けれど、その女の子は私よりも驚いたようで、本を握り締めたまま硬直していた。
やがて私が話しかけると彼女ははっと我に返り、随分すました口調で「帰りたまえ」なんて言うものだから、その容姿とのアンバランスな様子に思わず笑ってしまったのだった。
すると彼女は不愉快そうに眉を顰めたが、ちっと舌打ちしたかと思うと私には興味がなくなったかのように本に視線を戻した。
つまらなさそうに視線だけを巡らせる彼女は、おおよそ全く外に出ないのだろう、肌は驚くほど白かった。
綺麗だとかそういうことを思う前に、不健康だと思ったものだった。
もしかして、ずっとこんな風に本を読んでいるだけなのかと。
彼女はひたすらに本を読んでいるだけだから私はすることがなかった。
もしかすると彼女は、私はとっくに塔の外に帰ったのかと思っているのだろうか。
そもそも彼女は誰なのかと気になりはしたが、知らなければならないわけでもあるまい。
どうせ今日はグレンとお茶をするだけなのだし、と思い私はすまして本を読む彼女から本を取り上げた。
予想外なことだったのか彼女は呆けたように私を見て、数秒、事態を理解したのか私から本を取り返そうと立ち上がった。
かたん、と音を立て倒れた椅子をそのままに、彼女は真っ直ぐ私の持つ本に向かって手を伸ばしてきた。
小さすぎた彼女の手は生憎、私の持つ本を掠めもしなかったから、彼女は酷く悔しそうな顔をしていた。
真っ赤な顔で怒る様はまるで怖くもなくむしろ可愛らしく、自分でもわからないが胸が騒いだことを記憶している。
うっすら涙さえ浮かべている彼女の瞳は綺麗な青色で、まるで底なしの海みたいだと、思った。
╾╾中略╾╾