ONEPIECE

□これが運命なら
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ねえ、あなたはどういうときに愛しい人と出会えた奇跡に感謝するのかしら?


私はね、本当にささいなことや時にいつも思う。


もぎたてのみかんをおいしそうに食べるその人の笑顔を見たとき。

抱きしめるように回されたその腕が逞しいなとときめいたとき。

朝起きて、一番最初にその人の声が聞けた時。


ていうことは、いつも感謝しているってことになるわね。


ほんと、柄じゃないのに。




目を開くと、すぐ傍にルフィの顔があった。


「おはよ、ナミ。」


真剣なまなざしだった顔が、すぐにふにゃりと笑顔になる。



それがかわいくて、一瞬思考が停まったけれど、すぐに溜息が出そうになった。


「またそうやって…びっくりするじゃない。」

ここ最近、ルフィはずっとナミが起きるのを傍で待っているのだ。


傍…というよりは、顔を近づけて、今か今かと待っているのである。


「だって、ナミが言ったじゃないか。」



「え?」

思わずぽかん、とした声が出てしまう。

「起きた時には最初におれの声が聞きたいって。だから、起きるの待ってんだ。」



「あ…。」


たしかに、そんなことつぶやいたこともあったかな。


「だったら、もっとこう部屋で普通に待つとかあるでしょ。」

ふと窓際に座り、本を読んで自分を待つルフィの姿が脳内に浮かぶ。

朝日に照らされて、コーヒーを口にし、穏やかなひと時を過ごして…


うん、似合わないわね。





ナミは一人で納得し、頷いていた。

それにはルフィは首をかしげたがナミがまだ腰かけているベッドにもぐりこんだ。




「ちょっと、ルフィ!!」

ナミは慌てて顔を赤らめる。

二人一緒にベッドに潜り込むその意味をわかってやっているのだろうか。


しかし、ルフィはナミの膝を枕にし、体を猫のように丸めて目を閉じてしまった。


「んー…あったけえ…。」




「またこのパターンか…。」




ナミはがくっと力が抜ける。


ルフィはナミが目を覚ますのを待つため、ずっと早起きして構えているのだ。


その不慣れな早起きのために、ナミが起きると安心して力が抜けたように眠りに入ってしまう。



ナミの温もりを頼りにしているかのようなその姿に、彼を残して甲板に行けるはずもなく、ナミもそのまま添い寝をして眠ってしまうのだった。


「あったかい…。」



泥棒稼業していた時に感じることなどできなかったものだ。


いつだって血や汗、金貨の匂いに体を侵され、不気味に自分を追いたてる声におびえ、走ることに夢中だった自分。


それが今、大好きな人を包んであげたり、包まれたりして目を閉じている。




奇跡に等しいことだと思う。


不意に涙が出そうになってしまった。


最近、感傷に浸ることなどなかったのに。

ルフィの安心しきった顔がまるで鏡のようで。

ウソみたいだ。笑ってしまうほど。


少しだけ、昔のことを思い出してしまった。




「…ナミ?」



頬が濡れていることにようやく気付いた。



頬に触れた温かな指と手のひらによって。




「泣いてんのか…?」


不安そうに頭をこちらに向けている。

自分の腰に抱きついていたため、少し見づらいのだろう。


瞳の代わりに、指をナミの頬の上で滑らせ、涙を確認しているようだった。



「ごめ…起こしちゃって…。」


ずずっと鼻をすすらせ急いで笑顔を作る。


「無理すんな。」


それを見抜いたのか、頬をなぜる手が、口元を覆い隠すようにした。



「おれはナミの涙は嫌いじゃない。でもな、無理して笑っている顔は、好きじゃない。」




「ルフィ…。」



もうこの真剣な顔の彼には、あくびで涙が出たという嘘ではすまされないだろう。


腰にある彼の頭を抱え込むようにして、そっと口を開いた。



「なんだか、幸せすぎて…。」


「すぎってこたねえと思うぞ。」

ルフィが眉をむむ〜と寄せている。


「そうね。でも、そう思っちゃうぐらい全然違うんだもん。」


「そっか。」


ルフィはちょっと話しただけで、全部わかったかのようにふるまうのが不思議だ。

いや、ふるまっているだけじゃない。本当に全部の意味を汲み取ってくれるんだ。


辛いことの多くを語りたくないナミにとって、これほどありがたいことはない。


だって、ようやく言えた弱音をこうやって深くわかってくれるんだから。



「ルフィ、ありがとう。」


心細くなったときにあなたがいることに、感謝します。



「おれだって、頼ってくれるとやっぱ嬉しいな!ししし!」


悲しみを共有させてくれるあなたに、感謝します。


二人はそれぞれの感謝の気持ちを抱えて抱き合って笑った。



そんな二人が思うことの根っこは同じ。




出会えた奇跡に、ありがとう。








「ね、やっぱりこのまま寝ちゃうの?」


ナミはまた瞼を重くさせているルフィに問いかけた。


「ナミはもう泣かねえのか?」




「え、う、うん。」


「じゃあ、寝る。」



まだ悲しみが癒えてなかったら付き合ってくれたのであろう。


そんな優しい彼に、顔を近づけた。



ちゅっと軽く唇にキスをひとつ。




ルフィは満足そうににこりと笑うと、今度こそ本当に瞼を閉じてしまった。




「おやすみなさい。」





さっきおはよう、と言われたばかりでくすりと笑みがこぼれてしまったが。




なあ、お前はどんな時に大好きな奴といられる日常にありがとうって言いたくなる?



オレはいつもだよ。



ほらこうやってお前がみかんをむいている姿を見るたびに。


抱きしめた体が華奢で細くて守っていこうと誓うときに。


寝顔を独占できるこの時間をすごすたびに。



改めていうとなんだか照れちまうな。



こんなおれ、おかしいかな?ししし!笑ってやってくれよ。



お前の笑顔が好きなんだ。




ルフィは眠りに落ちながら、ナミを抱きしめる力を強くした。










そのころ、甲板の上では…。




「おーい野郎共!…とロビンちゅわは〜ん!ナミっすわ〜ん!朝食の準備ができました〜!」



「あー腹減ったあ。」


「うわあ、うまそーだな!」

ウソップとチョッパーがやってくる。



フランキーとブルックとゾロも席に着き、あとは本命の二人を待つだけだ。

そう思っていたサンジは、ロビンしかやってこないことに驚いた。


「あれ、ナミさんは」

「ふふ、あんまりにも気持ちよさそうだったから起こせなかったわ。」


ロビンが肩をすくめてから「残しておいてあげてね。」

という。



クルー達は、怒り心頭のサンジを除いてにやりと笑う。


船長と航海士の温かな恋を優しく見守っていた。




「それにしてもルフィが飯すっぽかすなんてびっくりだよなー。」

ウソップがフランスパンを口に含みながら言った。



「そのうち騒がしくなるんだろうな。一食喰いそこねた〜!って。」

ゾロがくあっとあくびをしながらやれやれという身振りをする。


「はんっ!!ナミさんはともかくあのたらし野郎には残す必要なし!!だ!!ナミさんのは取り分けてあるからそこにある分全部食べちまえ!!」

サンジが鼻を鳴らして自分も席につき、やけ食いといわんばかりに食べ始める。




「たらし野郎はどっちだか…。」

フランキーが小さく突っ込みを入れる。

ブルックは紅茶をすすりながら、うんうんと頷いていた。



「でも朝日を浴びて体内時計を作らないと…おれ二人の体が心配だよ…。」


チョッパーは優しく二人を思いやる。


ロビンはそんな一同を見渡して、ふふふ、と笑みを浮かべていた。



今頃は二人とも、どんな夢を見ているのかしらね…。


もしかしたら、夢まで同じものを見ていたり…。

なんてね。





二人が目覚めるのは、もう少しあとのこと…。

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