NARUTO

□望んだ共有
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大きく腕を伸ばして、空気を吸う。

それだけで、ここまでの長旅の疲れを癒してもらえるような気分になる。


「相変わらず…いい里だ…」


砂の里からの遣いのテマリは、木の葉の里に来ていた。


今の季節は新緑が生い茂り、花々が輝いている。


思わず、一人でいるのに言葉が先に出てしまった。

忍としてどうだろうかと思いながらも、自然と笑顔になる。


歩いていたが、ふとしゃがんでみた。

小さな花に、その花に見合った大きさの蝶が止まっていた景色に惹かれたのだ。

このような小さな花にも、この蝶を生かす蜜がある…。


テマリは些細なことに、心を震わせていた。





「…参ったな…。」

目の前の光景に一心不乱なテマリを、遠くから眺めて困ってしまった青年が一人。


砂の遣いを迎える役目をもらった、シカマルだった。


シカマルはすぐにテマリに気づき、近寄ろうと歩いていた。

ふと、彼女の表情が伺える所まで来た時、どきりとしてしまった。


なんて、優しそうな顔をしているんだろう。


いつもは気の強い性格がよく伺える、気の張った表情をしているものだから…今のような、可憐な乙女の表情に、シカマルは戸惑ってしまったのだ。



もちろん、それは彼女が意中の人だから。


「シカマル!いつからそこにいたんだ?」


はっとして改めて彼女を見ると、こちらに気づいたようで、歩み寄ってきていた。



「ああ…なんか…声かけずらくて…。」


やれやれというような顔で笑うテマリ。

「質問の答えになってない。いつからそこにいたんだ?」

「今さっきだっての…」


違う、いつからか忘れるほど、君のことを見つめていた。


「ならよかった。さあ行こう。」

テマリが歩き出す。

後ろから追いかけるようにシカマルも続いて歩き出した。



相変わらず歩みの速い彼女に、マイペースなシカマル。


二人並んで歩かないその図に、シカマルは溜息をついた。


「どうした?」


「いや、なんでもない。」


「そうだな、お前が溜息なんていつものことだな。」

ふむ、と納得したように声を出してから、また背を向けてしまった。



実はこのあっさりとした距離を保っている二人。

周りで知る人はいないが、既に思いを打ち明けあって交際している仲なのだ。


つまり、今のシカマルの溜息はテマリと交際しているという実感が全く得られないということへのものだった。



…なんのために死ぬほど恥ずかしい思いしたんだよ…。



テマリに出会うまで告白なんて自分がするものだとは全く考えてなかった。


色恋には興味がないし、縁もなかった。


そんな自分が年上の彼女とか…。

そこまで考えてくるとなんだか笑えてくる。


「何をニヤニヤしている?」


「なんでもねえよっ」


急に振り返ったかと思えば、むうっとしているテマリ。


「さっきからそればっかりだな。」

テマリも先ほどのシカマルのように溜息をつく。



…もしかして、さっき自分が思ったことを、彼女も感じている?

シカマルは彼女の些細な仕草を解析していた。


…だったら、オレだって男だ。



「テマリ。」


「うん?」


「手ぇ、繋がねえ?」


「うえっ?」

大人びた表情が一変、テマリは目をぱちくりとさせて顔を真っ赤にしている。

要するに、動揺しているのだ。


「…ダメ…か?」

自分から落とすようなことを尋ねるのは勇気がいる。


これで頷いて返されれば、自分はとんだピエロだ。


しかしテマリは自分の手とシカマルの手を交互に見て、おろおろとしているだけ。


純情な彼女にシカマルは、心底かわいい!!と感動していた。

でも段々それだけじゃ物足りなくなり、意を決した彼は、彼女の腕を強引に掴んだ。


「あっ」

「…嫌なら振り払えよ。…あんたならできるだろ。」


あーあ、自分から強引に繋いでおいて…情けねえ。

シカマルは自分の卑屈さに嫌気がさした。


「振り払うわけ…ないだろ…」

テマリが俯き呟く。


シカマルは驚き、そのあと嬉しさを噛みしめた。

そのまま二人は歩き出していった。



「…シカマル。」


しばらく歩いてから、テマリが声を出した。

「なんだ?」


「…いいのか?」


「なにが。」


質問の意味が全くわからない。
それでも苛立つことはなく、か細い声の彼女を楽しんでいた。


「その…これ…」


そう言って、シカマルの手を握る力が、きゅっと強くなった。


その一瞬の力に、シカマルのテマリへの愛おしさが増す。


「オレが無理やりしたんだから、嫌なわけ…」


「ち、違う。」


まるで五歳の女の子と話している気分だ。

要領を得ない会話なんて、聡明な二人にはあり得ない。

…のだが、手を繋ぐというだけで、あり得てしまった。


「…みんなが…気づく…だろう?」

気づく…?

一瞬意味がわからなかったが、すぐに納得がいった。


…ああ、そうか。

手を繋いで歩いていれば、絶対に恋人にみられる。

まだ誰にも付き合っていると公言してないオレ達の関係が、今の様子を見られるだけでバレてしまうということだ。


どうせ自分からわざわざ話すのも変だし、面倒くさい。


そう思っていたシカマルには、むしろ傍から見られてバレるのは好都合だ。


一応、気を使ってくれているのか。



…変なところで頭が固いというか…気がまわるというか…。



「オレには好都合だから、かまわないぜ。」


「そ、そうか…」

テマリがまた俯く。

ちらとシカマル彼女の表情を見れば、どこか嬉しそうに口元が笑っているのが見えた。


「いい里だな。天気がいい日は特にそう思うよ。」


しばらく歩いて行くうちに、手を繋ぐということに慣れたのか、テマリが景色を楽しみながら言った。


今は木々がよく生えた道を歩いている。


殺風景な建物だらけの近道より、彼女が喜んでくれるのではとシカマルが考えた道順を辿っていたのだ。


「あんたこっちに来る度にそれ言うな。」

「シカマルはそう思わないのか?」


尋ねられたので、少し考えてみる。


「他の里で長い間暮らせば嫌ってほどわかるかもな。」

「そうだろう?」

テマリがほほ笑む。


「でも、任務をしている間は思わないのか?」

また尋ねるテマリ。
今度は、あまり間をあけずシカマルが返した。

「任務の間は、絶対に里に帰るつもりだから…なんていうか…ホームシックとかはないんだよな。」


「なるほど…。確かに、そういうものだよな。」

テマリはすごく納得した顔で頷く。


それから、テマリは深呼吸をして新鮮な空気を感じてから、言った。


「いつか、木の葉に暮らしてみたいな。」






「…っ!」


その何気ない、本当に言葉のはずみで出たような口ぶりの言葉に、シカマルはひどく動揺し、顔を赤くさせた。



一瞬にして想像してしまったのだ。


木の葉の里で共に暮らす自分と…テマリを。
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