銀魂

□白い兎 黒い兎
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「なんでぃ、こりゃ。」

オレは天人の老人の後ろについて、愕然とした。

この老人は衰弱して町を徘徊しているところを巡回中に保護したのだ。

しばらく療養させて元気になったあと、屯所を出る時に、恩返しがしたいから自分の研究所に来てくれないかと奇妙な笑みを浮かべながら言われた。

その薄気味悪さに行くのをためらったが、怖いもの見たさというものだろうか。

気づけばオレは、行くと頷いていたのだ。

「こちらです、坊ちゃん…。」

「その坊ちゃんってのやめてくれないかぃ。もうそんな年じゃねぇから。」

確かにこのベビーフェイスでは坊ちゃんと言われてもしょうがないが、少し気に障る。
せめて王子とでも呼べ。

あ、もちろんサドスティック星のな。


「それじゃ、旦那、こちらです。けっこう大きいもんでしょ?」

そう言ってへらへら笑っている老人に促されて中へ足を進める。


奇妙なパイプ管が張り廻り、ケーブルが床に散らばっている。

ところどころボックス型の機械があり、中央には人一人が入れるほどの大きなカプセルが佇んでいた。


「私、寄生型エイリアン、キューサイネトルについて調べているんです。」

老人のその言葉に、ぴくりと反応した。

「それぁ、あの人騒がせな二年後騒動ってやつのエイリアンかぃ?」

「そうそう。つい最近この地球でだいぶ蔓延していただろう。実はそれは、この研究所が原因なんです。ここからエイリアンが逃げ出しちまって。私はエイリアンが二度と蔓延しないために研究所を離れて無理をしたら、つい動けなくなっちまった。そこに旦那がきて、助かったものです。」

「そうだったんですかぃ。でもそんなことオレにしゃべっていいんで?もっと上にバレたらあんた首斬られてやすよ。」

サド心故の脅し。

しかし、老人はその怪しい笑みを崩さない。

なかなか肝がすわったやつらしい。

沖田はそう思って、ふんと鼻を鳴らす。

「そりゃぁ、覚悟の上ですよ。いやね、この説明をしたのは、その私ができる恩返しのやり方をわかってもらうためなんです。」


「へぇ。そのエイリアンが何かオレに得のあることをしてくれるのかぃ?」

無表情で言ってみせる。
恩返しの内容がよめないが、あまり面白そうなものではないらしい。

まあ、最悪の場合は逃げるか…。


「もちろん。あなたの会いたい二年後の人に会わせてあげますとも。」


「は?」

「もう一度言いましょうか。お望みの人をここに連れてきてくだされば、二年後の姿に一時的に変えてさしあげます。」


「………。」

沖田は面食らった。

そんなこと、できるのかという疑問はすぐに解決に変わる。

そもそもここから蔓延したエイリアンだ。そのエイリアンを危険なく寄生させれば、成長を促進させてすぐにあの二年後の姿にできるのだろう。



その考えが頭でまとまってから、次に浮かんだのは、一人のチャイナ服を身にまとった少女だった。



二年後の姿になった時の記憶はもちろん残っている。

彼女は、驚くほどの急成長を遂げていた。

そして、彼女が元の姿に戻る前、確か彼女をかばうために体が勝手に動いた気がする。

あの時は膝枕をしてもらえた身分だ。
今のケンカ仲より進展があったのだろうか。




「連れてくればいいんだな?」



「はい。」








「チャーイナ。」

いつもよりも柔らかく声をかける。

戦闘意志ではないことを伝える、精一杯の努力だ。

いつもはすぐに柄を指にかすめて感触を確かめている手を、ぶらぶらとさせていた。

その努力の甲斐があったのか、最初は沖田の声を聞いて番傘を構えていたが、肩の力を抜いて、つまらなそうに振り返った。

「ケンカする気ないなら声をかけないでほしいアル。そんな丸腰のお前、戦う気になれないネ。」


そう言ってまた歩き出してしまいそうになる彼女に、慌てて沖田は近寄った。

「ちょっ、待ちなせぃ。良い酢昆布稼ぎの話があるんでぃ。」

「何アル?手短に話すヨロシ。」

沖田は陰でこっそり拳を握り締めた。
つかみはよくて安心したのだ。

あとは口八丁手八丁で、意地でも丸めこめてみせる。


結局、神楽はルンルンと軽快に沖田についてきた。

眠っている間、脳波を調べる検査に協力してくれれば酢昆布とたまごかけごはんを好きなだけおごってくれるというのに飛びついたのだ。

「私の脳内を見せるんだから、高くつくアル!」

「いや、脳内なんて見れるわけねぇだろぃ。脳波っていう脳の働きの電波を見るだけでさぁ。」


神楽はふーん、と返したが、わかっていないのがバレバレだった。


「ここでさぁ。」

「へぇ。立派なところアルな。」


「いらっしゃい。おや、かわいらしいお嬢さんで。」



老人がぺこりと頭を下げながら出てくる。

神楽も思わず頭を下げたのを見て、意外と礼儀正しいところもあるんだな、と沖田は感心した。


「では、こちらのカプセルの中で横になってください。しだいに眠れますから、どうぞリラックスして。」

老人は神楽を手早く促す。

神楽は何の不安な素振りも見せず、意気揚揚とカプセルの中に入り込んだ。


それを見たとき、沖田には少し罪悪感が芽生えた。


何も疑わない神楽が不安で、少しいらだちもした。


しかし、そのおかげでこうやって自分の願いがかなうのだからと心を鎮める。

次にやってきたのは、二年後神楽への高揚感だった。

「おやすみなさい。」

老人が優しくそういうと、カプセルを閉じ、パソコンを操作する。

カプセルの扉は透明ではないから、中の様子がうかがえない。

はらはらと様子を見守っていると、少し騒々しい音をカプセルが鳴らしたあと、もくもくと煙がまいあがった。

少し焦げくさいにおいもして、沖田は思わず大声をあげてしまった。

「おい!チャイナは無事なんだろうなぁ!!」

「もちろんですよ旦那!それじゃあたしは席をはずしますので、ごゆっくりどうぞ!時間は二時間が限度ですよ!」

老人が扉を閉めたあと、カプセルがゆっくりと開く。


オレはドキドキと胸を高鳴らせて、その時を待っていた。
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