銀魂

□青空に憧れて 舞い上がる薄ら紅
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「筋がいいわね。」

一人の女性が神楽に近寄り、にこっと会釈をおくる。

「本当アルか!?」

神楽は周りの驚きの視線を気にせず、嬉しそうにひとつ、飛び跳ねた。


「銀さん、神楽ちゃんプロから誉められちゃいましたよ…。」

「そりゃうまいなーと思ったけどぱっつあんよ…。まさかそこまでとは…。」




万事屋の紅一点、神楽は今、ダンススクールに参加していた。

もちろん貧乏な万事屋がそんな受講料に払うお金があるわけない。

この前解決した依頼の依頼主がこのダンススクールの先生であり、プロのダンサーの女性からだったのだ。




依頼解決のお礼に今、神楽は期間限定の無償ダンススクールに通っている。



特にやることもない日は、銀時と新八も保護者代わりで一緒に見にきてくれるのだ。




「すごいね神楽ちゃん!先生厳しくて有名で、なかなか褒めることってないんだよ!」


隣にいた少女が踊り疲れた後の汗をぬぐいながら、尊敬のまなざしを向けている。



周りもうんうん、と頷いていた。


「そ、そうアルか?なんだか照れくさいネ。」


えへへ、と頬を赤く染めている彼女を見て、銀時と新八はぽかーんとなった。


「神楽のことなら…ここで自慢したり偉そうにするかと思ったがな…。」


「いいや銀さん、神楽ちゃん同年代の女の子の前では結構常識人なんです。」


新八は深くうなづきながら言った。


いつもこうならかわいらしいのにな…と二人はしみじみ、遠くで踊る神楽を見ていた。


「はいそれじゃあ今日はここまで。家での練習も忘れないでね。」

先生がぱんぱん、と手を叩いて解散の時を知らせる。


女子たちは開放感を覚える溜息をつきながら、それぞれの保護者や自分の持ち物のところへと駆けて行った。



「どうだったアルか!褒められたアル!」


二人の前でふんぞりかえる神楽を見て、銀時と新八は笑みが浮かぶ。


やっぱりこっちのほうが神楽らしくていい。



毎日明るくダンススクールに通っていた神楽だったが、ある日それが突然変わってしまった。





「え、神楽ちゃんが来ていない!?」



新八はダンススクールの先生からかかってきた電話に驚いた。


「どうも志村さんや坂田さんが来ていない時に休んじゃうみたいで…。せっかく才能があるのに勿体ないわ。どうかレッスンによく出るようにと本人に伝えてください。」


口調を落としている先生は本当に残念そうだった。


新八はすいません、と一言謝ってから電話を切った。


「どうしたよ新八ぃ。」


依頼された仕事を少し休みにきた銀時に、新八は何が起きたかを伝えた。



「ったくタチの悪ぃことするなああいつ。」


「どこ行っているんだろ…。よっちゃん達とかは最近全然遊んでないって言ってたから、公園とかじゃないみたいだし…。」

新八は心配そうに眉を寄せる。


「だとしたらあとはあそこだな。」



銀時は眠たそうな目で新八から携帯電話を取り、ボタンを押しだした。







一方そのころ。

真撰組の一室。

一番隊隊長の沖田の部屋では。
「だーっもう無理っ!!」


沖田は机に向かっていたのをやめ、後ろで漫画を読んでいた神楽に抱きついた。



「うわっ、何するアルか!!!」


神楽は驚いてマンガを落としてしまった。



沖田は神楽の肩に鼻を押し付け、すんすんとにおいをかいでいるようだ。


「はー…落ち着く…。ったくあんたがここにいたら仕事なんてしてらんないでさぁ…。」



「お前この間もそう言って仕事途中で投げ出してただロ。いい加減終わらせるヨロシ。」


神楽が沖田を引きはがそうとしたが、本気ではない力のため、沖田がさらにぎゅうっと抱きしめた。


「やーだー。神楽の抱き枕で寝る。」

「私は抱き枕じゃないアル!」



「じゃあかまって。」


沖田はちゅっと神楽の頬に吸いつく。


「…おい。」


「なんでさ?」


「いやらしいこと考えてるんじゃないだろうナ。」



警戒する神楽に、沖田は黒い笑みを浮かべた。


「さあ、どうでしょうねぃ。」



ふっと沖田が神楽に体重をかける。



ひきっぱなしの布団に倒れこんでしまった神楽。


押し倒されている形になる。


「もうっ…こんな昼間から…。」


「そんな色っぽいセリフどこで覚えたんでぃ。」

「昼ドラ。」


「萎えるから言うな。さあどこでしょうねって言え。」


「何アルかそれ…。」


くすっと笑う神楽。


そのまま沖田は顔を近づけて二人の甘いひと時がはじまる。



…はずだったが…。






「おいチャイナ娘連れ込んでるか!!!」




「ぎゃあああああ!!?」


土方の突然の来訪に神楽は悲鳴をあげる。



もちろん沖田が覆いかぶさっているためどかすことができない。



要するに、二人が折り重なっているところを見られてしまったのだ。



「昼間っから盛ってんじゃねえ餓鬼が!!!」



土方は困っている様子の神楽を見て、沖田を蹴り飛ばした。


「いってぇ…人の恋路を邪魔するやつは馬に蹴られて死んじまえ。」



沖田が呪文を呟くかのような超低音で言い放つ。



それに臆せず、土方はすぱーっとたばこを吸った。


「ダンススクールの邪魔するやつはオレが蹴飛ばしてやるよ。」



「!!!」

「?」


神楽は身構え、沖田は疑問符を浮かべる。



「なんのことですかぃ。」



沖田があわてている神楽を見やって問う。


「なんだ、お前が無理やり連れ込んでいるからチャイナ娘がいけなくて、万事屋が文句言ってきたのかと思った…。」



独り言のようにつぶやく土方。


沖田はさらに首をかしげた。


神楽は最近よく自らこの部屋にやってきているのだ。





「とにかくチャイナ娘。」

鋭い視線を神楽に向けた。


「せっかくの授業は休むんじゃねえ。一度手ぇだしたら最後までやることだな。」


「銀ちゃんから聞いたアルか…。」

神楽はうなだれていた。


「授業…?」



「ああ。チャイナ娘は今ダンススクールに通わせてもらっている身なんだ。ところが万事屋が仕事にいっている時はお前の部屋にさぼりにきてたってわけだよ。」


沖田はがばっと神楽に振りかえる。


ダンススクールなんて初耳だ。



ふと、色っぽく踊る神楽が脳内に再生される。


”やべぇ…ご飯三杯はいける…!!!”

思わず鼻血が出そうになったかこらえる。

しかし実物を見たら抑えられるかわからない。






「出るか出ないかなんて私の勝手アル!どうせあの授業料、タダなんだから…。」


「おい、そりゃあ教えてもらっている先生に失礼ってもんだぜ。」


土方がたばこを再び口にくわえた。





神楽は分が悪くて、思わず黙ってしまう。





「今日のところはここにいたってかまわねぇが、次総悟の部屋にさぼりにきたら放り出すからな。」



土方はそう言い残すと、ふすまを閉めて部屋を出て行った。



「神楽…。」



沖田が静寂の中、そっと声をかける。




「なに心配そうな顔になっているアルか。」


うつむいていた神楽は、もう明るい顔になった。


「ちょっとグレたふりしてみたくなっただけネ。付き合わせて悪かったナ。」


神楽はそう言って部屋を出ようとする。




「神楽!今日はどうせゆっくりしていいんだ。もうちょっといてくだせぇよ。」


神楽の腕を慌ててつかむ。


沖田は優しい顔をしていた。


「ダンススクールでどんなことしているのか聞かせてくだせぇ。」



それを聞くと、神楽は本当にうれしそうな顔になって、そこに座り込んだ。




ダンススクールではいろんな踊りをしていること。


自分はゆったりとした音楽に乗せて踊ることが得意だということ。


先生に褒められたこと。


スクールの女の子たちとは楽しく仲良くやっていること。



きらきらとした顔で話す神楽を見て、沖田も笑顔になった。



しかし、こんなに輝く神楽を見て、なぜ自分のところへさぼりにくるのかはわからなかった。
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