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□とけていく
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なんとなく、暇だったから、それだけ。

どうして来たのかと問うといつもその答え。

別に、それが嫌なわけでない。
むしろ来てくれる事が嬉しい。

今日も暇潰しだなんて口実を作って、ホテルの一室へ泊まりに来た。

あいつにとって、俺が落ち着く人間だなんて思ってくれてるといいけど、

(…なかなかデレないよなぁ)


まぁ、ツンの中にあるわずかなデレを見抜く事は出来るようにはなったけど。



「恭弥ってほんと、猫みたい。」

「…それ、どういう意味?」

「悪い意味じゃねーよ」


笑いながら頭を撫でる。
ベッドに寝転がりながら少し心地よさそうにする恭弥の表情は、愛しくて仕方ない。

ついさっきまで風呂に入っていた恭弥からは、甘いシャンプーの香りがした。
上半身だけ何も身につけていない恭弥の白い肌を見て、思わず触りたいと思う。


「風邪ひくぞ」

「暑い」

「そうだな、蒸し暑い」


そういって冷蔵庫からアイスを取り出す。

「食えよ」

「毒、入ってないよね」

「なわけねーだろ。警戒しすぎだっつの」

「どうかな」


そう言いながらアイスの袋を開ける恭弥。

(なんだかんだで食べるのか)


「結構気が利いてるんだね」

「おかげさまで。」

「なにそれ」


アイスを頬張りはじめる。
どうしてか、頬張るというよりも舐める。
じれったい。エロい。


「わざとかよ」

「何が」

「囓ればいいのに、アイス」

「どう食べようと僕の勝手でしょ?」

「別に良いけど」


中学生にこんな感情抱くなんて俺もどうかしてる。


「ほんと、服くらい着ろ。…襲うぞ」

「どうぞお好きに」

「何言ってんだよ、本気にするぞ」

「変態」

「悪かったな」


このやりとり、もう何回目だろう。
それ程俺が変態的発言をしてるんだと思うけど。


「あ、」

ぽたり、ひとしずく落ちる。
(アイス、溶けた。)


「舐めてるからだよ、ったくガキみてぇ」

「うるさいな」

「早く食えよ」


可愛いな、こいつ。
ちょっとからかうとすぐ反応する。面白い。
全くほんと子供だ。

恭弥の髪に指を通した。
さらさら、女の子みたいな髪してるなぁ、


(もっと触りたい、)

こいつと居ると上手く感情のコントロールが出来なくなる。
いつもの自分を保つことがやっとだ。

好きなんだけど、気付いてくれてんのかな。


「恭弥」

「…なに」

「別に。ただお前の声が聞きたくて」

「さっきも話してただろ」

「そうだけどさ、」


溶けかけのアイスを舐めきる恭弥。
やっぱり色っぽい、わざとじゃないよな


「頼むから、その顔やめて」

「どうして、普通にしてるでしょ」

「ダメ。抑えきれなくなる」


いっぺん死ねばいいのに、毒を吐かれた。
俺にとっては愛情表現にしか聞こえないんだけど。


「恭弥、好き」

「うん」

「キスしたい」

「やだ」


あっさり撃沈。
仕方無いけど、やっぱり我慢するしか無いんだろうなぁ。

好きだからこそ、もっと近づきてーのに。

(キスくらい、しても良いだろ?)


恭弥はスキがなさ過ぎる。
ガードが堅い。なかなか触れられない、それが恭弥。



「けち」

「じゃあ、してあげるよ」

「ほんとか?」

「いつか、ね。」


くす、静かに笑う。
(あ、やばい)
天然なのか、それとも。

早く恭弥からキスしてくれる時が来ますように。

(その日が来るのは、まだまだほど遠い)

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