文其一。

□センチメンタル、数センチ
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視界いっぱいに広がる、幼馴染の顔。
これは近い。
すごく近い。

「「………」」

二人して沈黙。
ごつごつとした地面に倒れる幼馴染。
その上に倒れこむように覆い被さる、自分。
まるで押し倒してしまったようなこの状況。
胸がいっぱいで息が出来ないなんて、生まれて初めてのことだった。


いつも通り、グリーンはレッドの様子を見にいつもの洞窟を訪ねた。
今日もやっぱり洞窟の外は吹雪で。
いつも通り「寒い」と言いながらレッドがグリーンの首に巻いているマフラーを奪おうとした。

…だがそこで、グリーンがいつもと違う行動を取った。

彼が寒がりなのは百も承知なので、毎回毎回防寒具やその日奪われた襟巻きも何だかんだときちんと置いて帰っている。
大事に使えよ、という言葉と共に。
なのに何故、自分がここに来る度にこいつはマフラーをなくしているのか。
何故毎度毎度、自分用に買い直したマフラーを奪われなければならないのか。
どうせ外や山の洞窟内でバトルに夢中になったりする度に、熱くなって脱ぎ捨てては忘れて寝床に戻ってきているのだろうということは予想できる。
それでもグリーンは多少なりとも、不満であった。
金が勿体無いとか、そんなケチくさい理由ではない。

何となく、自分の心遣いが無下にされているような気がして。
自分の持ってきた物品は、レッドにとってそれほどまでに価値のないものなのかと。
少し不服に思ったのだ。

だからグリーンはいつものようにレッドが首のマフラーに手を掛けようとした時点で、抵抗した。
いい加減にしろ、これは俺のだと言いながら持ってきたリュックを示し、そこにお前の分があると言った。
(何だかんだで予備を持ってきているあたり、結局お人よしだなんて思いながら)
だがレッドはそれを聞いても納得せず、寧ろ抵抗されたこと不満を抱いたらしい。
それがいいんだと言いながら、無理やりグリーンの首に巻かれたそれを解こうとする。
傍から見ればいつもの喧嘩。
しかし二人はそれぞれ、色んな意味で本気だった。
グリーンが抵抗する力と。
レッドが無理やり引っ張ろうとする力がこんがらがって。
そうしているうちに二人の脚もこんがらがって。

「う、わっ!」
「!」

足の支えをなくした身体は、重力に引かれて地面へと倒れていく。
無意識に頭はまずいと、反射的にレッドの後頭部へ手を回した。



そしてこの状況である。



呼吸をしただけで、互いの息が顔にかかる。
それを無性に意識してしまって、うまく息が出来ない。
やっぱり肌が白いなとか、睫毛長いなとか。
綺麗な顔してるよな等々いろんな考えが頭のどこかで巡って。
いや、そんなことよりも。
同性で幼馴染で、伝えられる訳がないと分かっているのに。

それでも恋焦がれてやまない相手の顔が、こんな間近に迫っているなんて。


「…レッ、ド」


いや、これはだな。

別に悪いことなんて何もしていない。
ただの喧嘩の延長に待っていたアクシデントであって、グリーンに非はないというのについ口から漏れた言い訳の常套句。
抱くべきではない感情を秘めている後ろめたさがあるからこそだった。
驚いているらしい、目を真ん丸く見開いたレッドの瞳がすぐ近くにある。
グリーンがすぐにレッドの上からどけばいいものを、どこかお互い状況をまだ理解できていない部分があって。
お互いに息を詰めて、驚いた表情のまま暫くその距離で見つめ合っていたけれど。

やがてぎゅ、と。
不快そうにレッドが表情を歪めて。

ずるりとグリーンの首に垂れ下がっていただけのマフラーを素早く奪い取ると。


「………痛いよ、馬鹿」


それを首と顔を覆い隠すように被せて、ごろりと身体を横に向けた。
視線が外れる。
レッドの表情が見えなくなる。
そこで漸く、グリーンが正常な思考を取り戻した。

「わ、わわわ悪い!」

結局謝るのはグリーン。
慌てたようにレッドの上から飛び上がって退いて、気まずい空気を誤魔化してほら寒いならこれも着ろあれも付けろとリュックから色んな防寒グッズを取り出す。
だからグリーンは気付かない。



グリーンから顔を背けるように寝転がるレッド。
彼が顔を覆うように被っているマフラーの隙間から覗いたその耳が、いつもより赤かったなんて。



それすらも動揺しまくったグリーンがばっさばっさと身体に顔に重ねるように掛けた上着やら毛布やらで、見えなくなって。
その赤くなった耳も。
どうしてレッドがグリーンの巻いているマフラーに拘っていたのかも。
結局真実は闇の中。



それでも僅かな均衡が崩れるだけでこんなにも動揺する彼「ら」は真実、青春真っ盛りなのであった。







センチメンタル、数センチ







2011.4.2

リメレなら拳が跳んでくるレベル(※文二兄弟パロ参照)

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