文其二-二。

□とある少年の無謀な挑戦
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晴れて、(血の繋がらない)妹と恋人同士になりました。
という訳で。

「…なあ、レッド」
「…なに?」

ちゃんと恋人らしいことをしようではありませんか。

「ちょっとこっち向いて」

一緒に横に並んでベッドに腰掛けた二人。
位置は違うけれど、いつかと同じように漫画本に夢中になっている妹兼恋人の意識をこちらに向かせて。
油断していた隙を狙って、肩を引き寄せる。
顔と顔を近付ける。

ぐんっと距離が近くなる。


「!!」


べちんという音と共に、顔に少しひんやりつやつやとした漫画本の表紙の感触がした。

引き寄せるために肩に回した腕の力と、近付こうとする己から距離を取ろうとするレッドの力が拮抗する。
因みに漫画は開かれた状態のままだったので、レッドが力を込めてこちらを押し離そうとする度にぐしゃりと形を歪ませていく。

「っ、…!」
「〜〜〜っ」

暫く無言で押しつ引きつつの状態を守り続けていたが、これ以上はさすがに無理があると感じて。
そこでやっとグリーンが大人しく引き下がる。
ぶはっと無呼吸の状態から解放されて空気を吸い込む。
すぐ目の前では顔を真っ赤にして俯きながら、これまた呼吸を乱している可愛らしい妹の姿があった。
(因みに手元の漫画はやっぱり若干折れ曲がってぐしゃぐちゃになっていた。何ということを)

「なん、だよっ!?」
「な、なな、何はこっちの台詞…!な、なに、かんがえて…っ」
「なにってそりゃあ、キスしようとしたんだけど」
「きっ…」

ぼふっと音が出そうなくらいに茹で上がってしまったレッドが目に入る。
その様子がどれだけ所謂恋人の行為に慣れていないのかを彷彿とさせて、それはそれで可愛らしくて愛おしいのだが。

「ぐ、グリーンの、ばかっ!へんたいっ!」

こうも拒絶されてしまうと悲しくなってしまうではないか。
こっちだってそれなり(というかかなりの)勇気を振り絞って声を掛けたというのに。
キスだけで変態と言われてしまうのか。

「変態ってお前…何でだよ、れっきとした恋人同士だろ?」
「だ、だからってそんな急に…!」
「あー分かった、不意打ちがダメなんだな。じゃあレッド、キスさせて」
「〜〜〜っ!」

ばしん。
ついに漫画が飛んで来た。

「先に言えば、良いってもんじゃ…」

そうして顔を真っ赤にしたまま完全に俯いてしまったレッド。
だけどその様子はただ単に恥ずかしいからで、本気で嫌がっているわけじゃないことくらい分かる。
恥ずかしがる様子も可愛らしい。知っている。
だがしかし、いつまでもそのようなぬるま湯のような環境でいられるほどこのグリーン兄さんは我慢強くない。
…確かにムードもへったくれもないこの状況で触れようとしたのは少々強引だったかもしれないが。
彼だって若い性に日々悶々とする、れっきとした高校男子なのだから。
だから申し訳ないけれど、その純情な感情を逆手に取ろうと考えた策士なお兄様を許して欲しい。
ああ、純情すぎるもの考えものかもしれない。
(いや、もちろんそれも可愛いんだけど)


「…やっぱり俺じゃ嫌、か?」

少し声のトーンを落として、尋ねる。
思わぬ反応に驚いたのか、レッドの肩がぴくりと跳ね上がる。

「何、言って…」
「いや、だって。そんなに嫌がられると思ってなかったしさ。さすがにちょっと、へこむっていうか」

落ち込ませてしまった。
そう思ったレッドは慌て出す。
もちろん心の底からの拒絶じゃないと確信していたけれど、やっぱりこの反応がなければ落ち込んでいたかもしれないから少し安心した。

「そ、そんなつもり…じゃ」

慌てたレッドがこちらの顔を覗き込もうと近寄ってくる。
さり気なく腰に手を回す準備をされているレッドはそれに気付いているのかどうか。

「じゃあキスしても…いい、のか?」

今度こそ伺うように。
少し困った顔でそう尋ねれば、いくら恥ずかしいからってレッドもあからさまな拒否など出来るわけもないのだ。
躊躇いが見える。
だけど嫌という訳じゃない。
ただその先の未知なる行為に怯えているだけ。

「俺は…レッドとそういうこと、したいんだけど」

それを理解出来た今だからこそ、今度こそ本音を告げる。
後半になるにつれて小声になっていってしまったのは、やっぱりまあ何だかんだと照れくさいからで。
ここまで言ったからにはレッドにも分かって欲しい。
今までの我慢や苦悩を。
堪えきれずに今にもはち切れそうなこの想いを。

そうしてレッドは暫しの、グリーンにとっては永遠にも思えるくらいの逡巡ののち。


「…わかった」


いい、よ。

そう小さく答えを返してくれた。
断られない自信はあったものの、やはり受け入れてくれるということは想像以上に嬉しいことで。
思わずばっと顔を上げると、これ以上はないというくらいに顔を真っ赤にして、目を潤ませたレッドがいて。

―――可愛い。

そこでほんの少し。
ほんの少しだけ、グリーンの中にある鍵の外れる音がしたのは確か。

するりと前もって控えさせていた左腕を上げて、レッドの腰へと回す。
右手はそのまま白くて柔らかい頬へと伸びていき、こちらを向くように促す。
こちらの行動にびくりと肩を跳ね上がらせていたけれど、それでももう抵抗する様子はない。
視線が合う。
そうしてお互い無言のまま。

ゆっくりと、触れるだけのキスをする。

ふにゃりと重ねられた唇。
初めて触れた、柔らかいレッドの感触。
どきりと今までで一番強く心臓が、跳ねて。
そのまま名残惜しげにゆっくりと離してこつんとおでこを合わせてみれば、今にも泣き出してしまいそうなレッドの顔が視界いっぱいに広がる。
愛おしさに今度こそぎゅうと強く抱き締めれば、レッドのほうから小さく甘えるような声が漏れた。
その声にざわりと背筋が粟立つ。
だからまた触れたいという欲求が湧いてしまうのは仕方のないことだ。
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