文其二-二。

□保育園小ネタ集
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レンジャーショー後日談。
姉と町内会のおじさまと。



「お誕生日会、大成功だったわね。リーフも喜んでたわ」
「そりゃあ、よかったな…」

俺はお陰様で大変な目に遭った訳だけど。
その呟きは優雅に紅茶を啜っている姉に軽く聞き流されてしまう。
全く相変わらずいい笑顔をする人である。

「あら。怪人役も大好評だったのよ」
「そうかよ…」
「町内会も暫くその話題でもちきりだったみたい。是非レギュラーメンバーとして今後の活動に参加して欲しいって声も上がってるみたいだけど?」
「だっ、誰がやるか!こ、こっちはな…あの怪人役のせいで、色々…」

耳を疑うような言葉が耳に入って、思わず語調が荒くなる。
だがそれもすぐもにょりとあの日のあれやこれやを思い出してしまったことによって、段々小さくなっていってしまった。
色々、まあ、色々あった。
主に自分の心臓とって非常によろしくない一日だった。

(誤魔化し切れたとは思う、けど…あー、でも!やっぱあれはないだろ!)

今思い出しただけで無意味に己の頬を殴りたくなる衝動を抑え付ける。
お誕生日会の後に話した先生の表情が頭に浮かんでは消える。
あの何かを期待したような瞳には、一体どんな意味が込められていたのだろう。

「愛を信じる一途な悪役、素敵じゃない」

こくりと紅茶を一口含んだ姉は、相変わらずの笑顔で。
これ以上は反論するだけ無駄なようだ。
次々と襲い掛かる気苦労に何とも重たいため息をついた。
そんなところで、タイミングよく家の電話が鳴る。

「あら、電話」
「へいへい俺が出ますよっと…」

完全に腰を落ち着けている姉に何かを言う気にもなれず。
見るからにだるそうな足取りで電話へと向かい、受話器を取った。

「もしもし…」
『おお、グリーン君か!丁度良かった!いやー先日はご苦労さん!』
「えーっと、あー…どうも」

赤レンジャーの中の人だった。
そのテンションと姉の先ほどの言葉に瞬時に嫌な予感がした。
だが気付いたところで受話器を下ろすわけにも行かない。

『この間の演技素晴らしかったぞ!俺たちは感動した!』
「そりゃあどうも…」
『で、だ!もしグリーン君さえよかったらなのだが、是非とも我々の仲間として、レンジャーを…』
「その件でしたらお断りします」
『おう!?何だ随分と早い返事だな』

有無を言わさぬ返答。
予想以上の早さに相手も驚きを隠せないようだったが、それでもそこで怯むような赤レンジャーではない。

『まあそう答えを急ぐな。何も悪役だけって訳じゃないんだぞ。病欠が出た時にはちゃんとしたヒーロー役も』
「お断りします」
『最近黄色レンジャーの関節痛が酷くてな。若者にバトンタッチしたいと前々から言ってたんだが』
「お断りします!」

ああ、面倒くさい。
恐れていた事態がまさに起こっているこの状況。
あれやこれやと上手く勢いでごり押ししようとしている赤レンジャーに隙を見せるまいと、間髪入れずの返事を繰り返す。
だというのに。


『そんなに嫌か?ヒーローになるのも悪くないぞ。町内、特にちびっ子たちの人気の的!あの先生さんも惚れ直すこと間違いなしだぞ!』
「んなっ!?」


その一言に受話器を落としそうになった。
何を、何を。
一体何を言い出すのだこのとんだ似非ヒーローが!

『誤魔化せると思うなよ若造が!あのような愛の告白をしてたら誰だって分かるわい!』
「な、なんななな」
『華奢で可愛らしい先生さんだったな。向こうも満更ではなさそうな様子だったし、まあせいぜい頑張れよ!』

いきなりの発言に思考の回転が追いつかない。
はくはくと口が開いたり閉じたりとせわしない。

『だから先生さんのためにも!町内会を守るヒーローにならないか!』
「おっ…断りします!!」

だがその言葉だけは、すんなりと出てきた訳だけれど。




(グラハム・ベルはみていない)




ちょうないかいが みかたに なった!(テレレレッテッテッテー)

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