企画用倉庫

□かの友人は、蚊帳の外
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詳しいことはよく分からなかったけれど、とりあえず彼女は彼女なりにレッドを心配してくれているということらしい。

「…で?どうなのよ実際。あいつとはどこまで進んだわけ?」
「ど、どこまでって?」

そしてこうなった以上、とことん面倒を見てくれるつもりらしい。
こちらの様子などお構いなしに、ずずいっと身を乗り出してきたカスミに思わずレッドの体が仰け反って。
いきなりの質問の意味を理解しかねて、戸惑いながらも聞き返す。

「とぼけないの。恋人同士になったんだから、色々とすることあるでしょ」
「え、えっと」
「デートは…したのよね。手は繋いだ?抱き締めあったり、キスとかは?」
「手、え、き、きす…?」
「部屋に遊びに来てるんだったらそれくらいはしてるわよね…それに相手が相手だし。もうそれ以上までいっちゃったとか?」

楽しそうにあれやこれやと質問をしてくるカスミ。
それは恋するオンナノコ同士であればお約束の流れだけれど、レッドにとっては初めての経験で。
色んなことを言われて、自分と隣人がそんなことをしている図を思い浮かべようとして失敗して、また体中の熱が上がる。
だって、そんな。
彼と手を繋ぐなんて。
抱き締め合うなんて。
キス、なんて。


ぼっと勢いよく燃え上がるようにレッドは顔を真っ赤に染めて、今度こそ完全に俯いてしまう。


両手をぎゅっと握り締めて、頭と一緒に目線も下に、だがどこかぽーっと遠くを眺めているような様子のレッド。
傍から見れば何ともまあ可愛らしい光景ではあったが、そんな表情にカスミは何かを悟ったらしい。
まさか、いやそんな。
そう言いたげな顔で、信じられないというような顔でレッドを見つめるカスミ。
そして恐る恐るといったように、口を開く。

「まさか…レッド」
「…ん、」
「何も進展してない、とか言わないわよね」

未だに熱が冷めなくて、どこか上の空のまま返事を返していると。
そんな質問が飛んできて。



「…ちゃんと、呼び捨てで名前呼べるようになったよ…?」



自分の成果を恥ずかしそうに、しかしどこか誇らしげに語った自分を友人はどう思ったのだろう。
くらぁりと、それはそれは盛大な眩暈に見舞われたらしいカスミが額に手を当てながら仰け反っていた。

「か、カスミ?」
「〜〜〜あっ、あんたって子は……!」

見たこともないポーズに思わずびっくりして呼びかけると、大きなタメの後にがっしりと肩を掴まれ叫ばれる。
それにまた驚いて、目を見開いて近付いた相手の顔を見る。

「どういうことよ!付き合ってるんでしょ!」
「う、うん」
「なのに何もないってどういうこと!?あの変態が相手で!付き合い始めてから結構時間経ってるのに!」
「あ、あと敬語使わなくても話せるようになった…けど?」
「……っ」

がくうっと床に手を付いて項垂れるカスミ。
レッドは何故彼女がそんなに打ちひしがれているのか分からなくて、きょとんと首を傾げるしか出来ない。

「どうしたの、カスミ。頭痛い?」
「ある意味ね。…恥ずかしくて手も繋げないとかどこの小学生カップルよ…」
「…だって、恥ずかしいよ」
「ええ、あんたはそうでしょうね。あんたはそれでいいのよ」

また無意識に下を向いてしまったこちらを無言で見つめてきたかと思えば、ため息と共にそんなことを言われる。
今までの恋愛のれの字も知らなかったレッドを彼女はよく知っているから、その辺りは譲歩してくれるようだ。

「問題は相手。あんなナリしておいて未だに手出してないとかどんだけヘタレなのよ!見た目詐欺にも程があるわ!」
「…た、多分僕が誰かと付き合うの初めてだから、色々と気を遣ってくれてるんだと思う」

一旦下降した血の気がまた一気に上がってきたらしく、再び勢いを取り戻したカスミが捲くし立てる。
対するレッドも自分の恋人が非難されていることに気付いて、思いつく限りの反論をしてみるのだが。
再びずずいっと近付く親友様の顔。
何だか目が据わっていてとても怖い。

「それはそれ、これはこれよ…!あいつはどっちの部屋にいるの!?」

カスミは私が問い質してやる、なんて頼んでもいないことを申し出ながらすっくと立ち上がった。
このまま隣の部屋に乗り込みかねない様子だったのを慌てて止める。

「い、今は会社の研修で違う地方に行ってるから、部屋にはいない」
「…本当に?」

それは本当の話だ。
三日間の泊まりでの研修ということで、二人は一昨日から顔を合わせていない。
じっと疑いの眼差しを向けてくるカスミにこくこくと何度も頷いて、だから落ち着けと暗に告げる。
カスミはまだ納得していないような表情だったけれど、仕方ないと気を落ち着かせるために小さく息を吐いた。
そんなタイミングで。

きんこん、と。
部屋のチャイムが鳴り響いて、二人同時に顔をそちらへと向ける。
続いてこんこん、と控えめなノックの音。

『…レッド、いるか?』

最近呼ばれることに慣れ始めた呼び捨てで呼んでくれる、その声。
今日も聞けないだろうなと思っていたそれに、どきんと胸が高鳴った。
その傍らではカスミが「来たじゃない!」と待っていた獲物が釣れたかのように、勢いよくすっくと立ち上がって。
そこで危機感が蘇る。
何の断りもなしにすたすたと勝手に玄関へと向かうカスミの服を慌てて引っ張る。

「え、ちょっとカスミ」
「離しなさい、レッド。私が出る!」

あまりにも勢いがいいものだからつい力負けしてしまって、カスミがドアノブに手をかけるのを許してしまう。
ばたん、と勢いよく扉が開かれると、そこにはスーツ姿の彼…グリーンが立っていて。
本来なら真っ先に目に入るはずの黒髪が見えなかったからか、彼が驚いたように目を見開いていたのが遠目でも見えた。
そのままグリーンはカスミにぐいっと襟元を掴まれ引き寄せられて、どこぞのチンピラのように睨みつけられて。

「お久しぶりね、このストーカー隣人!」

レッドから話は聞いてるわよ!

開口一番、少なくとも扉の開いた玄関先で叫ぶようなものではないことを叫ばれる。
カスミ、と窘めるように声を掛けるが聞く耳を持たない。
グリーンもまたいきなり掴みかかってきた人物が何者なのかを把握して、少しだけ困ったように目を逸らしていた。
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