企画用倉庫

□真相は嵐の中に
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※年上攻めです。
※赤視点→緑視点です。





母子家庭であるレッドは、母の帰りが遅い日はお隣の家に預けられることが決まりになっていた。
母親に手を引っ張られて。
綺麗な一軒家のインターフォンを鳴らすと、がたんと物音が室内から聞こえてくる。
そうして開かれた扉の先に。

「ようレッド。来たか!」

こんにちはという簡単な挨拶の後に笑顔で話しかけてくれるその人はグリーンと言って。
五つくらい年の離れた、お隣のお兄さんである。
いつもごめんなさいねと謝る母親に「いいんですよ」と答える彼は、本当に年の割によく出来た人だと思う。
そうしてその、レッドにとっては大きな掌で。
こちらの小さな掌を握ってくれながら。

「よし、何して遊ぶ?あ、先にプリン食うか?」

などと言いながら、優しい笑顔でこちらの手を引っ張ってくれるのだ。
年上の異性相手に恥ずかしくて上手く喋ることのできないレッドは一つ一つに小さく頷くことしか出来なったけれど。
それでも彼女の意思を汲み取ってあれこれと世話を焼いてくれた彼は、間違いなくレッドの幼馴染と呼べる人であった。

それから少し時間が経過して、彼のところへ行く方法も覚えて来る頃になると。
レッドは一人になる時以外でも、一人でグリーンの家に遊びに行くようになった。
少し高い位置にあるインターフォンを背伸びしながらかちりと押す。
そうすると、大体はグリーンがいつものように出てきてくれて。

「今日も一人で来たのか。偉いなぁお前」

なんて言って頭を少し乱暴にだけど、優しく撫でてくれるのだ。
それが何故だか嬉しくて、胸がほんわりと温かくなって。
それを何度でも経験したいがために、機会を得てはそうして遊びに行った。
面倒見のいいお兄さん。

「ほら、お前の好きな苺だぞー」
「…あ」
「でもやらねー」
「……ぅ」
「っ、ご、ごめん冗談だって!ほら、ちゃんとやるから泣くなよ!」

少し意地悪な時もあるけれど、こちらが泣きそうな顔をすればすぐ困ったような顔で慌て出して。
やっぱりその後も、優しく頭を撫でてくれる。
じんわりと温かくなる胸と、もっと構って欲しいという欲求。
それはきっと、幼い恋心というやつで。
本人の自覚のないままに加速していく可愛らしい想い。
だからそうして、レッドは一人でお隣の家に足を運んでいた。



そしてそれがぱたりと止んだのも、その幼さ故だった。



レッドがぴかぴかのランドセルを背負い始めた年のこと。
いつも通りに、一人でぱたぱたと元気よくお隣の家を訪ねた時。
彼はいつも通りに迎えてくれたけれども、家の中には既に先客がいた。

「!」
「…その子、だぁれ?」

見知らぬ女の子。
グリーンの同級生であるらしいその子が、少し面白くなさそうにレッドを見ていた。

「隣に住んでる子。よく遊びに来るんだ」

なんて説明する彼の横顔は、自分のよく知る笑顔とはまた違うもの。
それが何だか特別なもののように思えて。
自分にそれが向けられないのが悔しくて。
そして、こんな風にグリーンが自分以外の女の子と仲良くしているのを見たくなくて。
せっかくだから一緒に遊ぼうぜ、と同級生の子に頼んでいるグリーン。
レッドは自分の頭くらいの高い位置にある彼の服の裾すら引っ張れなくて。
ぎゅっと、自分の服の裾を強く握り締めた。

「…かえる」
「レッド?」
「ぼく、かえる…っ!」

居場所を奪われたような気分になりながら。
泣き出しそうな顔もそのままに、レッドは呼び止めるグリーンの声も聞かずに家を飛び出した。
そのまま暗くて静かな自分の家に戻って。
母親が帰って来るまで、ぎゅっと布団の中に隠れて、意味も分からないままに込み上げてくる涙を声もあげずに流し続けた。
それ以降レッドがグリーンの家を訪ねることはなく。
不思議に思ってくれたらしいグリーンがたまにこちらの家を訪ねてきた時も、無視していないふりを続けた。
こうしてレッドの無自覚の幼い恋心は、無自覚の苦い失恋と共に消えていった。





時は経過し、数年後。
ランドセルなんてとうの昔に卒業したレッドは今、地元の高校生として普通に生活をしていた。
特に目立つようなタイプではないが、良い友人にも恵まれているし学問に関しても問題はない。
あんなに小さかった背丈も今では校内の女子の平均より少し上、くらいまで伸びており。
白い肌にスレンダーな体格、だが女性としての柔らかみをしっかりと帯びた、それはそれは美しい女性に成長していた。

とはいえ、本人は全く世間から評価されている自覚がない。
世の中の男性が放っておかないくらいに美しく成長した彼女は、引く手数多にも関わらず今まで恋人を作ったことがない。
それは間違いなく、幼い頃の失恋が尾を引いているからで。
しかもどうやら、彼女の心の奥底はまだそれを失恋と認めたくないと思っているようで。
…つまり、レッドはまだ。


顔を合わせなくなって数年にもなる、あのお隣のお兄さんへ抱いた淡い恋心を忘れられないでいるのだ。


「…グリー、ン?」

それはそんな頃の、お話。







グリーンは二人姉弟で末っ子ということもあり、昔から何かとお世話をされることが多かった。
甘やかされる分末っ子は年下の面倒を見るのが苦手、という話を聞いたことがあるけれど。
元々面倒見のよい血筋だからだろうか。
彼は幼い頃、お隣に住む五つ年下の女の子の面倒を見るのが好きであった。

まるでお人形のような可愛らしい女の子の名前はレッド、と言って。
恥ずかしがり屋なのか口数は多くなかったけれど、彼の家での遊びを楽しんでくれていたようだったし。
グリーンの後ろをとことことついて来てくれるその様子は、見ていてとても可愛らしいものだった。

…詳しい事情は知らなかったけれど、お隣の家はレッドとその母親の二人暮らしだということは知っていた。
だから、グリーンは根拠もなくこれからもずっと自分が彼女の面倒を見るものだと思っていた。
頭を撫でると恥ずかしそうに、だけどとても嬉しそうに目を細める少女を守るのは自分だと。

なのに、少女は彼を拒絶するようになった。
それはグリーンがこうして地元の大学に進学した今でも、小さな棘として彼の胸に何となく刺さったままで。
そんな状態のまま、本日。

彼女の家を訪れた次第である。
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