企画用倉庫

□天然プラネタリウム:
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「寒くないか?」
「え、…っ」

何かを返事するまでもなく、唐突に横から伸びてきた手に肩を抱かれて。
強く引き寄せられる体。
倒れこんだ矢先に強くなるグリーンの匂い。
それを実感した途端、突然の接近に今まで抑えるのに必死だった心臓が一気に跳ね上がって。
息が出来なくなる。
言葉に詰まる。
だけどそれは、嫌なものなんかじゃない。
りん、りんと近くから遠くから虫の音が聞こえる。
その他に聞こえるのは、自分たちの息遣いと、心臓の音くらい。

「…あー…」
「な、なに…?」
「いや、うん」

徐に聞こえてきたグリーンの唸り声に少し驚いて、思わず問い掛けてしまう。

「やっと二人っきりになれたっていうか」

すると少し言いにくそうに言葉を濁した彼は、レッドを抱き寄せているほうとは反対の手で鼻をかくと。

「今すっげぇ、幸せ」

そうして少し恥ずかしそうに。
でも嬉しそうに微笑むものだから。

(あ、う)

またしても何も言えなくなってしまう。
胸が締め付けられてしまう。
幼馴染だったグリーンとこんな風になるなんて、少し前まで思ってもみなかったのに。
夢見ることはあっても叶うはずがないと諦めていたはずなのに。
幸せ、だなんて。
そんなの。

「……ぼくも、」
「ん?」
「ぼくも、すごく…嬉しい」

決まっているじゃないか。

抱き締められる力が強くなる。
もうずっと心臓が煩くて仕方ないはずなのに、それすらもどこか遠くから聞こえて来るような。
そんな錯覚だらけで夢の中にいるみたいで、でも全部現実で。

「レッド…」

不意に頬に添えられる手。
その力に身を任せるように顔を上げると、すぐ目の前に照れくさそうに微笑んでいるグリーンがいて。

何も言わずに落ちてくるその影から、今更逃れようだなんて思わなかった。

「…」

優しい、重ねるだけのキス。
ゆっくりと離れていくそれが少し名残惜しいなんて、今のレッドにはまだ言えやしない。
再びぎゅっと抱き寄せられると、そこからはお互いにひたすら夜空を見上げる。
他のものに集中しないと、体のいろんなところが溶けていってしまいそうだから。

「…合宿、楽しかったか?」
「…うん」

楽しかった。
そう小さく呟くと、グリーンはまた柔らかく微笑んだ気がした。
最近よく見せてくれるようになったそれは、レッドもついこの間までは知らなかった表情だ。
そんな風に優しく、微笑んでくれるなんて。
そんなにも大人っぽく、笑えるなんて。
ずるいなあと考えていたら。

「…あ、でもさ。やっぱりお前あいつと仲良すぎじゃね?」
「…まだそれ、気にしてたの?」
「あったりまえだろうが。ビーチバレーの時だってあいつのほうばっか応援してたし…」
「それは苛められ過ぎてて可哀想だったからだよ…」

先ほどまでの大人っぽい雰囲気からは一転、ふと思い出したようにいつもの子供みたいに拗ねた表情になるグリーン。
どうにもレッドと他の男子が仲良くするのが気に食わないらしい。
レッド自身は特別仲良くしているつもりは全くないのだけれど、向こうからするとそうもいかないようなので。

「そういう問題じゃねーの。あー思い出したら腹立ってきた…やっぱ二人っきりで出掛けるのが一番だな、うん」

思い出した苛立ちを発散するように、ぼそぼそと呟いている生徒会長様に今度はレッドが笑みを漏らす番。
そんなことを言いながら、役員の皆で集まって馬鹿騒ぎすることを誰よりも楽しんでいるのはグリーンなのに。
笑ったことに気付いたのか、少しまた拗ねたように隣の彼がぼやく。

「…すみませんねー、嫉妬深くて」
「ううん、いいよ。…そのほうが、グリーンっぽい」

わざとらしい敬語に、今度こそ笑いを堪えきれなくなる。
そうして思っていたことを口にすると、そうかよと本格的に唇を尖らせ始めてしまった。
申し訳ないけれど、そんな所作も可愛いと思ってしまう。
これも長い間知らなかったグリーンの顔。
今まで一緒にいても見ることのなかった表情が、増えていく。
きっとレッドしか知らない顔だ。
こうして新しい表情を、もっともっと見られるようになりたい。

(そうなったら、いいのにな)

まだまだ始まったばかりで先の見えない、二人の道。
だけどこうして言葉を交わして、想いを重ねて。
少しずつ、なくしていたものを取り戻そう。
きっと隣の、強引で俺さま気質な幼馴染兼恋人だって、そう思っているに違いない。

「ね、グリーン」

だからレッドは。
これからもよろしくね、なんて恥ずかしい言葉はとてもじゃないけど言えない代わりに。


「また二人で、お出かけしようね」


新しい約束と、初めての自分からのお願いをした。
そうして猫のように彼の体に擦り寄ったレッドの体は、きっとすぐに引き剥がされて。
再び、しかしさっきのものよりももっとずっと長くて熱い口づけをされてしまうのだろう。

二人を見守っていた木々や星だけが知っている、優しくて甘い夜のお話。







天然プラネタリウム:priceless.
(だって僕らは、これから始まる)







fin.
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