企画用倉庫

□僕と私のインテグラルX
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「グリーン会長はぽかぽか賞。賞品はカイロですー!」
「うお、しょっぼ…。っつか何だよそのほのぼのした名前は…」

珍しくトップの賞を外したグリーンに、後輩たちは歓声を上げる。
ただプレゼントを交換するんじゃつまらないと、ババ抜きとくじ引きという謎の組み合わせで行われるプレゼント争奪戦。
くじ引きの順番を決めるためだけにトランプに時間を掛けるのもどうかと思うだろうが、これはこれで盛り上がるものだ。

「会長がそんな微妙な賞引くなんて珍しいですねー」
「うるせぇ。俺だってそんな時くらいあるっての」
「謙虚な会長も珍しい…ってうわすみません!何でもないです!」

思わず本音を漏らしてしまえば、いい笑顔で睨まれることくらい分かっているだろうに。
相変わらず変なところで不器用な会計担当は案の定不敵な笑みを浮かべ始めた会長に向かって慌てて弁明を始める。

「あとは4等と特賞ですね、レッド先輩チャンスありますよ!」
「う、ん…」

そう、ババ抜きでトップになっただけでは決していい賞が当たらないのがこのトランプ大会の特徴。
寧ろ少なくなればなるほどいい賞品が回ってくる場合もある。
特に何か賞品が欲しいと思っていたわけでもないレッドは純粋にのんびりとババ抜きを楽しんだ。
結果として普段では絶対にない、後ろから数えたほうが早い順位についてしまっても特に問題はなかった。
寧ろ一番最後でもよかったのだが、ルールですからと後輩に窘められてしまっては仕方ない。

「さ、先輩どうぞ!」

元気いっぱいの会計がくじ引き箱をずずいとレッドの前まで持って来てくれた。
こくりと頷いてから手をその穴にそっと入れてみる。
確かに紙の感触が二枚。
直感で掴んだほうのくじを引き出して、折り畳まれた紙をゆっくりと開いてみる。

「…4等」
「うわー、残念!レッド先輩なら取ってくれるって思ってたのに…って、あれ。じゃあもしかして僕が特賞?!」
「あらら、つまんない結果になっちゃったね」
「つまらないって…えええ…」

ぴらりと紙に書かれていたのは4等という可愛らしい文字。
覗き込んで残念そうに眉を寄せた後輩たちが何とも微笑ましい。
そうして渡された賞品の包みを開いてみると可愛らしいお菓子のセットが入っていて、またくすりとレッドは微笑んだ。

わいわいと賑わうパーティ会場。
水面下で進行していた(らしい)後輩達の計画を元に催されている生徒会メンバーのみでのクリスマスパーティだ。
とは言っても会場はいつもと同じ、グリーン宅のグリーンの部屋そのものなのだが。
レッド達はいつも通りのメンバーで楽しい時間を過ごしていた。



『先輩方だけにいい思いはさせませんよ!』

という言葉が響いた生徒会室。
クリスマス会をするのだと役員たちから声高々に宣言された時は、さすがの会長と副会長も一瞬ぽかんとしてしまったが。

『言うじゃねーか、てめぇら…』

とにかくレッドはその後のグリーンのしてやられた、とでも言うような声と表情だけは覚えている。
いつの間にか生徒会内では周知の事実となっていた会長と副会長のお付き合いも、副会長自身はまだ隠せていたと思っていたので。
それはもう大層驚いたり恥ずかしかったりと大変だったのだが。
あれよあれよという間に進行してしまった大会はこうして大盛り上がりとなって。
近場のスーパーで調達したお菓子と軽食や、同時進行で下の階で開催されているレッドの母を交えての身内のクリスマス会から差し入れてもらった手作りオードブル。
いつもの宅配ピザもあっという間に平らげてしまった。

「あとはケーキですね!えーっとグリーン先輩、申し訳ないのですが冷蔵庫に入れて貰ったケーキとナイフを取り出したいのですが…」
「じゃあ、僕が取ってく…」
「あーいいってレッド、俺が取ってくる。いいからお前は座ってろ」
「え…と」
「そうですよね!今の時代、亭主関白だけじゃやってられませんよ!」
「いくら旦那さんでも、食器の位置くらい把握してますもんね!」
「言っとくけどここは俺の家だからな。忘れてんじゃねーよ」

きゃいきゃいとはしゃぐ後輩たちの言葉につい顔を赤くしてしまうレッド。
それに対してさらりと軽く流したグリーンは、それでも何となく嬉しそうな笑みを浮かべながら部屋を出て行った。
何というか。
やっぱりそういう言い回しをされるのは不慣れで、恥ずかしいというか。
思わず一人取り残された気分になって、小さく身じろぎをした。
ところで。


「よし、じゃあ皆!撤収準備!」
「…え?」


不意に進行係を務めていた書記が全員に向かって声を掛ける。
それに応じるように、それぞれの役員がうんと頷き合って。
そして立ち上がったかと思うとあっという間に身支度を始めてしまった。
何が起こっているのか分からなくてぽかんと、きょろきょろと状況を把握しようとしていたレッドだったが。

「レッド先輩、私たち帰りますね!」
「え」
「丸一日お邪魔するなんて恐れ多いこと出来ませんよ。ケーキは僕たちからのプレゼントですので、仲良く食べて下さいね」
「存分にいちゃいちゃしちゃってください!」
「い、…」

矢継ぎ早に告げられる後輩たちの一言メッセージ。
最後の会計の一言にぽふっと湯気が出そうになるくらいには顔を赤くしたレッド。

「「「では、よいクリスマスを!」」」

口々に声を揃えて言われて、全ての発言に何の返答も出来ないままドアの手前で手を振る後輩たちの後を追いかけようとする。
そうしているうちに、ぱたん、と扉を閉じて。
さっさと撤退してしまう後輩たち。

「あ?おい、ちょ、お前ら?!」

慌てて後を追いかけようと扉を開けると、既にお邪魔しましたー!と下の階にいるグリーンや彼の姉、他の家族に挨拶をしているのが遠くで聞こえた。
ひょっこりと階段のほうへ顔を出す。
下の廊下にはケーキとナイフや小皿を持ったまま、玄関のほうを見送っているグリーンの背中が見えた。

「……えっと…」

ぽかんとしたまま。
その様子を見守っていると。

「あいつら…本っ当に言うようになったじゃねぇか」

片手で器用に頭を抱えてぼやきながらグリーンが階上にあがってきた。
今更よいクリスマスも何もあるか、と小さく悪態をつくグリーンはそれでもどこか楽しそうで。
何だかんだとやっぱり後輩たちが大事なんだな、と嬉しい気持ちになった。

「…ど、どうしよう?」
「んー?何が」

だけどここから先をどうすればいいのか分からない。
関係を修復させて、更には恋人同士になってからの初めてのクリスマス。
明日くらいには二人で過ごせたらいいな、くらいには思っていたけれど。
いきなり二人きりにされてしまうと、どうすればいいか分からなくなってしまう。
そう思って助けを請うようにグリーンを見れば、不思議そうな顔をして返された。
だから思わず違う質問を投げ掛けてしまう。

「…だってケーキ…こんなに食べられないよ」
「あー、まあな。丸々残して行くとはさすがに思わなかったぜ。仕方ないから余ったら姉ちゃん達に渡そうぜ」

それもそうかと何となく納得して頷く。
確かに下の階にはグリーンの、更にはレッドの家族もいるのだ。
彼女たちは彼女たちでケーキを用意しているのだろうけれど、人数が多いというのは心強い

「…あ、だったら下で一緒に食べ…る…?」
「…お前、このタイミングでそれを言うか」

そこでじっとりとした視線を向けられてしまった。
家族水入らずは水入らずで久しぶりだから素敵なことだと思ったのだけれど、やはりそうは行かないらしい。
何となく気恥ずかしい気持ちが消えないまま、レッドは小さく俯いた。

「悪いけど、これでも十分妥協してきたんだ。もうこれ以上は俺が許さねぇ」
「え、あ」
「せっかくお膳立てしてもらったんだ。期待には応えようぜ?ほら、部屋戻れって」
「わ…」

きゅっと手を握られて。
突然の接触にどきりと胸を跳ね上がらせたと同時に部屋へと連れ戻される。
床に散らかったお菓子の袋や空になったペットボトルが、つい先ほどまで皆といたのだという事実をやけに色濃く告げていた。
せめて片付けてから帰れってのと更にぼやくグリーンは丁寧にケーキを机の上に置く。
レッドとしては先ほどの後輩たちからのいちゃいちゃという言葉や、グリーンの手の感触が忘れられなくて何とも落ち着けない。

「開けるぞー」
「う、うん…」

二人で横に並んでからの、開封。
可愛らしい、そして少し小ぶりのホール型ケーキが顔を出してきた。

「…おいしそう」
「だな。あいつらいいセンスしてるじゃねぇか。レッドどのくらい食う?」
「えっと…」

そうしてお互いにケーキを切ってお皿に乗せる。
ふわふわなスポンジに真っ白なクリーム。とても美味しそうでふと先ほどまでの緊張感を忘れてしまうようだった。
フォークを刺して一口食べると、甘さ控えめのしっとりとしたクリームの味が広がる。

「おいしい」
「ああ、なかなかいけるな」

その味にほにゃりと頬を緩ませると、隣でも満足そうな反応が。
どこか懐かしい優しい味。
昔、距離が離れるより前の二人が家族皆で食べていたあの頃のケーキと何となく似ている味。
ふと愛おしさが込み上げて。
こんなに素敵なプレゼントを貰えるなんて、今度後輩たちにも何かお返しをしなきゃなぁとぼんやりと考えた。
ところで。

「…レッド」
「え?」
「ん」

隣のグリーンにあ、と口を開けられる。
レッドは口を開けられた意味が分からなくて首を傾げる。
するとじれたようにグリーンが声を出した。

「…食わしてくれねーのかよ」

そこで漸く相手の行動の意味を理解した。
忘れていたはずの熱を思い出す。
そうだった。
今レッドは、恋人と二人きりなのだ。
初めての、二人きりのクリスマスを過ごしているのだ。
長い年月を掛けて離れて心の距離を取り戻した仲良し幼馴染が、二人で和気藹々とおやつをつついているだけではない。

「……」

おず、と。
何も言えない状態のまま、一口サイズに切ったケーキを持ち上げる。

「は、い」

そうして恐る恐るケーキを差し出すと。
満足そうに微笑んだグリーンは、優しくこちらの手首を掴みながら更に自らのほうへ引き寄せて。
ぱくりとそれを口に含んだ。


「うまい」


そうしてやっと、その一言。
その笑顔。
ここまでの嬉しそうな表情をされてしまっては同じケーキだよ、なんて言えやしない。
何て、何て我侭な。
大好きな幼馴染。
大切な、恋人。

こんなにも優しくて甘い時間が訪れるなんて、一年前の自分は思いもしないだろう。
だけどこれは、現実なのだ。
まだまだ短く、だけど長い長い時間を掛けて実感してきた事実。

「ほら、レッドも口開けろよ」
「あ…う、ん?」

己の動作とその笑顔に耐えられなくて顔を真っ赤にして俯いてしまっていると、不意に聞こえた相手の声。
何が何だか分からない状態のまま顔を上げると、グリーンが既にケーキをフォークに刺して準備を始めていて。
ん、と差し出されるままに口を開いてぱくりと一口。
恥ずかしいけれど、嬉しい。
そんな気持ちがレッドを支配する。
もぐもぐと咀嚼して、こくりと飲み込んで。

「どうだ?一味違うだろ」
「…ん。おい、しい」

得意げに言うグリーンがまた微笑ましくて恥ずかしくて、だけどこれ以上ないくらい、幸せで。
精一杯のおいしいとありがとうを伝えたくて、口を開けば。
また満足そうにグリーンが笑う。
レッドにだけ見せてくれる笑顔で。
真実愛しい人と過ごせる聖なる夜に、心の底からの優しい微笑みを。



「…じゃ、俺ももう一口」



そうして顔に影が落ちて来る。
レッドのその甘い息と、口に残る甘みを全部奪われてしまう。
外の寒さなんて何のその。
離れていた過去すらも、愛おしいと思えるように。
長い長いキスを繰り返す。

きっと冬休みが明けた時の会合では、後輩たちに異常なくらい優しくしている生徒会長が見られるんだろうな、なんて。
長く長く息を交わらせながらふと心のどこかでそう思って、レッドはくすりと小さく笑うのだった。







僕と私のインテグラルX

12/24 20:57
(we were minus four kilometer away.)







fin.
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